本作出演者の誰が「圧倒的存在感」なのか。錦織友一役の吉沢亮だ。帝大生である友一は常に座卓に向かい、常に壁際にいる。それはどこか、本作がテーマとする怪談の妖怪のような雰囲気でもある。
男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“壁際のお亮さん”と名付ける本作の吉沢亮を解説する。
工夫を凝らした初登場場面
髙石あかり主演の朝の連続テレビ小説『ばけばけ』第4週第16回冒頭、主人公・松野トキが働く織物工場が閉鎖した。元士族の松野家は、トキの父・松野司之助(岡部たかし)が作った借金で困窮している。同じ士族出身の銀二郎(寛一郎)が松野家に婿入りして、荷運び、内職、女郎宿の客引きまで朝昼晩働く。銀二郎は借金取りから「馬車馬殿」とあだ名で呼ばれるほど働く。身体も精神も徐々に崩れ、士族の精神を押し付けられることにも疲れた。
銀二郎は出奔。職を求めて東京へ。トキは夫を連れ戻すために単身上京する。同郷の者たちが身を寄せ合う下宿に辿り着くのだが、そこで帝国大学の学生である錦織友一に出会う。演じるのは吉沢亮。満を持しての初登場場面のためか、画面のカット割に工夫を凝らしている。
『国宝』のロングラン上映を受けて
吉沢亮は、2025年最大の話題作にして大ヒット作の一つ、『国宝』で女形の歌舞伎俳優を演じている。吉沢の顔、顔、顔のアップ一辺倒な演出が気になりはするのだが、そりゃカメラも思わず寄っちゃうよなという納得の美しさではある。公開から4か月以上ものロングラン上映を受けて、『ばけばけ』での初登場も俄然、期待が高まった。すると第17回が放送されるや、SNS上では友一役の吉沢が「圧倒的存在感」だというコメントが散見された。
確かにそうである。『国宝』で世界的な話題にもなり、今、吉沢亮の演技は見る者を圧倒するだけの強度がある。友一役は、後輩たちから「大盤石」と呼ばれる、地元松江一の秀才。どちらかといえば三枚目(二枚目半?)的な役柄だが、吉沢の演技はどっしりと重厚感がある。

