千花さんは、私の話を静かに聞いてくれた。
「里子の苦しみ、理解できるよ…。信男にも非はあると思う。あいつ、学生時代からえらそうだったもんねー。里子、よく頑張ってたわ」
千花さんは苦笑しながら、そう言って私に寄り添ってくれた。
「でもね、里子…。きびしいことを言うようだけど、不倫は…里子らしくなかったんじゃない?」
千花さんは私の目を見て、静かに続けた。
「私はね…実は、子どものころさ…父がモラハラ気質で、その逃避のためか、母が不倫したんだよね。それで、両親は離婚。兄と一緒に、父に引き取られたの」
「え…」
私は、初めて聞く、千花さんの過去におどろきを隠せなかった。
「父親としての愛は感じていたからさ。時に反抗しながらも、折り合いをつけて大人になった。で、母への思いは複雑でねー。幼いころに、『置いていった。捨てられた』という思いがあって…」
千花さんは、さみしそうな表情を浮かべ、沈黙をした後、話を続けた。
「それでも好きだったよ…。母なのでね。もし、私がマモルの立場なら、里子のおなかの子がうらやましいと思う。母親がそばにいてくれるからさ。マモルもきっと、ママを必要としているよ」
千花さんの言葉は、私の心を深く揺さぶった。
先輩の過去と、自分が犯した過ち
不倫・離婚・親権・妊娠…。さまざまな問題が山積みななか、里子は大学時代の先輩・千花に連絡をし、今までのことを包み隠さず話します。すると千花は、まずは里子の気持ちに寄り添ってくれました。そして、きびしい言葉も。
実は、千花自身が、両親の離婚を経験。そして、子どものころに感じた正直な気持ちを明かしてくれたのです。里子も、自分の息子・マモルのことを考えると、胸が張り裂けそうです。
このあと、里子は会社に離婚と産休の相談をするために、上司に報告します…。
上司にも告げられた、きびしい一言
杏さんは、私の話を最後まで聞いてくれた。 そして、静かに口を開いた。
「前沢さん、正直に言うわ…。旦那さんにも非はあると思うけど、私もサレ妻で離婚した身からすると、前沢さんのしたことをやっぱり容認はできない」
千花さんと同様に、杏さんの言葉はきびしかった。でも、その言葉の裏には、彼女の経験からくる重みと、私への深い愛情が感じられた。
「でも、あなたが、まじめな人で…優しくてがんばり屋さんで、すてきな人であることを、一緒に働いている私は知ってる」
杏さんは少しメガネをずらして、うつ向いた。
「だれしも間違いはある…。そんなに強くないよね」
それから、紅茶をすすり、もう一度、しっかりと私を見つめた。
「今後、悩んだり、苦しんだりしたなら、もっと早く周囲の人を頼って。私はあなたの上司として、友人として、全力でサポートするから」
杏さんはそう言って、私の手をそっと握ってくれた。 杏さんのきびしくも温かい言葉に、涙が止まらなかった。
自身も、夫に不倫され離婚した経験がある上司・杏さん。きびしい言葉をかけつつも、「全力でサポートする」と、力強い言葉をかけてくれました。
先輩にも、そして上司にも、叱咤激励された里子は、おなかの中の小さな命とともに、再スタートを切ることを誓います。

