離婚報告と産休相談のため、元「サレ妻」で、離婚経験者の上司・杏にすべてを打ち明けた、里子。杏から「不倫した事実は容認できない」と、はっきり言われ…。
上司のきびしくも温かい言葉
杏さんは、私の話を最後まで聞いてくれた。 そして、静かに口を開いた。
「前沢さん、正直に言うわ…。旦那さんにも非はあると思うけど、私もサレ妻で離婚した身からすると、前沢さんのしたことをやっぱり容認はできない」
千花さんと同様に、杏さんの言葉はきびしかった。でも、その言葉の裏には、彼女の経験からくる重みと、私への深い愛情が感じられた。
「でも、あなたが、まじめな人で…優しくてがんばり屋さんで、すてきな人であることを、一緒に働いている私は知ってる」
杏さんは少しメガネをずらして、うつ向いた。
「だれしも間違いはある…。そんなに強くないよね」
それから、紅茶をすすり、もう一度、しっかりと私を見つめた。
「今後、悩んだり、苦しんだりしたなら、もっと早く周囲の人を頼って。私はあなたの上司として、友人として、全力でサポートするから」
杏さんはそう言って、私の手をそっと握ってくれた。 杏さんのきびしくも温かい言葉に、涙が止まらなかった。
「母」になる決意
「理由はなんであれ、すべて、私の心の弱さが招いたことです…」
千花さんの言葉が頭をよぎる…。マモルは「母親は自分を置き去りにした」と、いつか思うだろう。おなかの子は、「不倫した母親に育てられている」ということを知るかもしれない。
そう思わせないように、私は変わるしかない…。「母親」になるしかない。
それに、胎動を感じるたび、エコーを見るたびに、この子に会いたい、抱きしめたい、幸せにしたいと願う気持ちにうそはない…。
「私のしてしまったことは、許されることではありません。でも、この子のためにも、マモルのためにも、強く生きていきます」
その瞬間、私の思いに応えるように、おなかの子どもが力強くうごいたのが分かった…。 私は、その胎動を感じながら、おなかにそっと手を当てた。
「ごめんね…そして、ありがとう」
この子のために…マモルのために、そして私自身のために、強く生きていかなければならない。マモルと再会できる日を信じて。マモルが…おなかの子が、誇りに思える人間になれるように…。
私は、自分の過去と向き合い、未来を歩んでいくことを決意した。

