定期的な運動は心筋梗塞予防において極めて重要な役割を果たします。有酸素運動により心肺機能が向上し、筋力トレーニングにより日常生活での心臓への負担が軽減されます。適切な強度と頻度で継続的に運動することで、動脈硬化の進行を抑制し、血圧やコレステロール値の改善にもつながり、心筋梗塞のリスクを大幅に低減できます。
監修医師：
滝村 英幸（医師）
2006年3月聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業
2006年4月聖マリアンナ医科大学病院初期臨床研修医
2008年4月済生会横浜市東部病院循環器内科
2016年12月総合東京病院循環器内科
2022年4月総合東京病院心臓血管センター循環器内科心臓血管インターベンション科科長
【資格】
日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医
心筋梗塞を予防する食生活の基本原則
食生活の改善は心筋梗塞の予防において基本的で効果的な対策の一つです。適切な食事により動脈硬化の進行を抑制し、心血管リスクを大幅に軽減することができます。
食事法の心血管保護効果
野菜や魚を多く取り入れた食事は心筋梗塞予防に有効とされます。地中海式食事法（WHO推奨）も有名ですが、日本では厚生労働省が『減塩（1日6g未満）』や『野菜1日350g以上』を推奨しています。
地中海式食事法は、心筋梗塞の予防に効果的な食事パターンといわれています。この食事法は、オリーブオイルを主要な脂質源とし、魚類、野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ類を豊富に摂取する食事パターンです。地中海式食事法の心血管保護効果は、複数の栄養素の相乗効果によるものです。オリーブオイルに含まれる一価不飽和脂肪酸は、LDLコレステロールを低下させながらHDLコレステロールを維持する効果があります。魚類に含まれるオメガ3脂肪酸は、炎症を抑制し、血液凝固能を適正化します。野菜や果物に含まれる抗酸化物質は、動脈硬化の原因となる酸化ストレスを軽減します。
実際の食事実践では、週に2回以上の魚料理、毎日の野菜・果物の摂取、全粒穀物の選択、ナッツ類の間食、オリーブオイルを使った調理などがポイントとなります。また、赤肉の摂取を週2回以下に制限し、加工肉の摂取を少なくすることも重要です。適量の赤ワインの摂取も地中海式食事法の特徴ですが、アルコールの摂取については個人の状況を考慮して判断する必要があります。
塩分制限と血圧管理の重要性
塩分の過剰摂取は高血圧の主要な原因であり、心筋梗塞のリスクを高める要因です。日本の方の平均塩分摂取量は1日約10gと推定されていますが、心血管疾患の予防のためには1日6g未満に制限することが推奨されています。塩分制限により血圧を下げることで、心筋梗塞のリスクを20〜30%軽減できるとされています。
効果的な塩分制限を行うためには、調理時の塩の使用量を減らすだけでなく、加工食品や外食の選択にも注意が必要です。日本の方の塩分摂取量の約70%は加工食品や調味料から摂取されているため、食品表示の確認や低塩商品の選択が重要になります。また、出汁や香辛料、酸味を活用することで、塩分を減らしても美味しく食事を楽しむことができます。
塩分制限と同時に、カリウムの摂取を増やすことも血圧管理に効果的です。カリウムには余分なナトリウムの排出を促進する作用があり、野菜、果物、豆類などに豊富に含まれています。ただし、腎機能が低下している方では、カリウム制限が必要な場合があるため、医師と相談のうえで食事調整を行うことが重要です。
まとめ
心筋梗塞は生活習慣と密接に関連した疾患ですが、適切な知識と継続的な予防策により、そのリスクを大幅に軽減することが可能です。症状の早期認識、危険因子の把握、生活習慣の改善を通じて、一人ひとりが自身の健康を守ることができます。
定期的な健康チェックと医療機関との連携により、心筋梗塞の予防と早期発見に努めることが、充実した人生を送るための重要な基盤となるでしょう。
参考文献
厚生労働省令和６年(2024)人口動態統計月報年計（概数）の概況 厚生労働省：循環器疾患について 日本循環器学会：急性冠症候群ガイドライン国立循環器病研究センター：心筋梗塞とは
国立循環器病研究センター：糖尿病
日本動脈硬化学会：動脈硬化性疾患予防ガイドライン
