
時代の潮流に流されず、身近な世界を描き続けた画家
アンドリュー・ワイエス(1917-2009)は、20世紀アメリカ具象絵画を代表する画家です。第二次世界大戦後に脚光を浴びたアメリカ抽象表現主義、ネオ・ダダ、ポップアートといった動向から距離を置き、ひたすら自分の身近な人々と風景を描き続けました。
その作品は、眼前にある情景の単なる再現描写にとどまるものではありません。作家自身の精神世界が反映された深い精神性を宿したリアリズムとして、世界中で高く評価されています。日本でも1974年の初個展以来、根強い人気を誇り、1995年、2008~9年にも展覧会が開催され、合計32万人以上を動員しました。
展覧会の見どころ
ワイエスの没後、日本初となる待望の回顧展
本展は、ワイエス没後はじめてとなる国内待望の展覧会です。1974年に東京と京都で32万人を集めた日本で最初の個展以来、17年ぶりの大規模巡回展となります。長年ワイエスを愛してきた日本のファンにとって、あらためてその魅力にふれる貴重な機会となるでしょう。
テーマは「境界」。アンドリュー・ワイエスの精神世界へ

ワイエスの作品には、窓やドアなど、ある種の「境界」を示すモティーフが数多く描かれます。境界は西洋絵画史のなかで古くから取り上げられてきたテーマですが、ワイエスにとってはより私的な意味を持つものでした。
それらは内と外、自己と他者、生と死など、画家自身の精神世界と外の世界をつなぐものだったと考えられます。本展では、その「境界」の表現に着目して、ワイエスが描いた世界を見つめ直します。世界の分断が進むいまの時代に、ワイエスの絵画が静かな希望をもたらしてくれることでしょう。
日本初公開となる作品も
本展では、10点以上が日本初公開となります。ホイットニー美術館(ニューヨーク)の《冬の野》(1942年)、フィラデルフィア美術館の《冷却小屋》(1953年)、フィルブルック美術館(オクラホマ)の《乗船の一行》(1984年)など、アメリカの名だたる美術館が所蔵する名作が来日します。
これらの作品を通じて、ワイエスの芸術的変遷と、彼が生涯にわたって追求し続けた精神世界の深まりを体感することができるでしょう。
