授かり婚をした主人公、ミユ。幸せな結婚生活になると信じていましたが、待っていたのは夫であるユウイチによるモラハラでした。
優しい夫との出会い
私とユウイチが出会ったのは、職場の同僚に誘われた飲み会の席。少し控えめだけれど、時折見せる笑顔が魅力的なユウイチに、私はすぐに惹かれました。当時40歳を目前にしていた私にとって、恋愛は夢物語に近いものでしたが、彼の優しさはかわいた心に染み渡るようでした。
「ミユさんと話していると、すごく落ち着きます。自分が自分でいられるようで」
そう言ってくれたユウイチと、トントン拍子で交際が始まりました。付き合って間もない半年間は、二人の間には甘い空気が満ちており、些細なことで笑い合える幸せな日々が続いていました。ユウイチは私の体調を気遣い、仕事終わりには必ず「大丈夫?」とメッセージをくれましたし、少しでも私が落ち込んでいると見れば、すぐに駆けつけてくれました。私は「この人と一生を共にしたいと」心の底から願っていました。
しかし、その穏やかな時間は、予期せぬ妊娠によって急展開を迎えることになります。
妊娠がわかってから変化した彼
私が妊娠を告げたとき、ユウイチは一瞬、言葉を失いました。そして、次の瞬間、無理に作ったような笑顔で、「そうか、おめでとう」と言ってくれました。このときの違和感を、もっと直視すべきだったと思います。でもそのときは、彼が喜んでくれていると思い込みたくて、違和感に蓋をしてしまいました。
授かり婚という形でしたが、お互いの両親は温かく祝福してくれました。特に私の両親は、安堵の表情を見せてくれました。
籍を入れて、すぐのころはまだ穏やかな時間が続いていました。しかし、私のつわりが本格的になり、徐々に体調が優れなくなってくると、ユウイチの態度が少しずつ変化し始めたのです。
ユウイチは働き盛りの40代。結婚とは、帰れば温かい食事と、綺麗に整えられた空間があることだったのかもしれません。しかし、つわりに苦しむ私には、完璧な家事をこなすだけの体力がありませんでした。
ある晩、私がどうにか絞り出すように作れたのは、レトルトのおかずを温め、味噌汁とご飯を添えただけ夕食。ユウイチは食卓につくやいなや、冷たい視線を私に向けました。
「これだけ?」
その一言に、私は愛想笑いしかできませんでした。
「ごめんなさい、今日はつわりがひどくて……。でも、ユウイチが好きな鮭も焼いたんだよ」
私は精一杯の笑顔でそう言いましたが、ユウイチの表情は変わりませんでした。
「手抜きするなよ。俺は毎日働いてるのに、家に帰ってこんな飯を出されたら労働意欲が削がれるよ…」
その言葉は、私の耳に突き刺さりました。つわりで吐き気を堪えながらキッチンに立ったのに、その努力は水の泡のように思えたのです。

