「全身性エリテマトーデス」の倦怠感を乗り越える薬物療法と生活習慣へのアプローチ

「全身性エリテマトーデス」の倦怠感を乗り越える薬物療法と生活習慣へのアプローチ

全身性エリテマトーデスに伴う倦怠感への対処には、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善も重要です。本見出しでは、最新の治療法や日常生活での工夫、心理的アプローチまで多角的に紹介します。

倦怠感に対する治療アプローチと対処法

全身性エリテマトーデスに伴う倦怠感の改善には、病態そのもののコントロールが重要です。疾患活動性を抑えることが、倦怠感の軽減や再燃防止につながります。

薬物療法による倦怠感の改善

全身性エリテマトーデスの基本治療薬であるヒドロキシクロロキンは、皮疹や関節炎などの症状に有効であるだけでなく、倦怠感を含む全般的なQOL改善効果が複数の研究で報告されています。再燃抑制作用もあるため、長期投与の意義が大きい薬剤です。

一方で、ステロイド薬は炎症を速やかに抑えるため、急性増悪時の強い倦怠感には有効です。しかし長期投与は骨粗鬆症、糖代謝異常、感染リスクなどの副作用を伴うため、可能な限り減量・中止を目指す必要があります。

免疫抑制薬は臓器障害のコントロールを通じて倦怠感の改善に寄与します。さらに、B細胞を標的としたリツキシマブや、I型インターフェロンを抑制するベリムマブなどの生物学的製剤は、従来治療で十分な効果が得られない症例に対しても倦怠感を含めた症状改善にもつながる可能性がある新しい治療選択肢です。

非薬物療法と生活習慣の見直し

薬物療法に加えて、日常生活の工夫も倦怠感対策には不可欠です。適度な有酸素運動やストレッチは、筋力維持や血流改善を通じて疲労感を軽減することが知られています。実際にリウマチ性疾患患者を対象とした研究でも、無理のない運動習慣が倦怠感の改善に寄与することが報告されています。ただし、病気の活動期には過度な運動が炎症を悪化させる可能性があるため、主治医の指導のもとで行うことが大切です。

睡眠の質の改善も重要です。不眠や途中覚醒は倦怠感をさらに強めるため、睡眠衛生指導(就寝・起床時間を一定にする、寝室環境を整える、カフェイン摂取を控えるなど)が有効です。

また、心理社会的ストレスは症状を悪化させる大きな因子です。認知行動療法(CBT)やマインドフルネスなどの心理的アプローチ、患者会やサポートグループへの参加によって、孤立感を軽減し、倦怠感への対処力を高めることができます。

このように、全身性エリテマトーデスに伴う倦怠感は炎症制御と生活支援の両輪で対応する必要があります。医師・看護師・臨床心理士・理学療法士など多職種が連携し、個々の患者さんに合わせた治療計画を立てることが、症状の改善と生活の質の向上につながります。

まとめ

全身性エリテマトーデスは、自己免疫機能の異常により引き起こされる膠原病の一つで、厚生労働省により難病指定されている慢性疾患です。特に女性に多く見られ、倦怠感をはじめとする多様な症状により患者さんの生活に大きな影響を与えます。現在では生物学的製剤の登場により治療選択肢が拡大し、適切な治療により症状のコントロールが可能になってきています。患者さん一人ひとりの病態に応じた個別化医療の推進により、今後さらなる治療成績の向上が期待されます。

参考文献

[厚生労働省難病情報センター 全身性エリテマトーデス]

[日本リウマチ学会 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン]

桃原 茂樹

監修医師:
桃原 茂樹(草薙整形外科リウマチクリニック)

日本を代表する整形外科・リウマチ専門医であり、変形性関節症、リウマチ、変形性脊椎症、骨粗鬆症、痛風、偽痛風などの治療と研究に従事。これまでに慶應義塾大学特任教授、東京女子医科大学教授を歴任し、豊富な臨床経験と先進的な研究を基に、実地医療に加え国内外の医療教育や国際交流にも尽力。
【学歴】
慶應義塾大学 医学部卒
博士(医学)(慶應義塾大学)
米国Rush University Medical Center, Department of Biochemistry
日本・ヨーロッパ間リウマチ外科交流プログラム
【職歴】
1984年 慶應義塾大学医学部研修医(整形外科学)
1991年 慶應義塾大学医学部助手(整形外科学)
1993年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター助手
1997年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター講師
2005年 東京女子医科大学附属青山病院助教授
2008年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター教授
2008年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター副所長
2016年 慶應義塾大学先進運動器疾患治療学講座特任教授
2025年 医療法人社団 博恵会理事長
【現在の学会・社会活動】
日本整形外科学会 専門医
日本整形外科学会 リウマチ認定医
日本リウマチ学会 専門医・指導医・評議員
日本リウマチ外科学会 評議員
日本リウマチ学会 理事
配信元: Medical DOC

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