「今日を生きた」ことが誇り
編集部
病気に立ち向かう力となったものを教えてください。
広瀬さん
「自分の経験を誰かの役に立ててもらいたい」そんな想いが、大きな原動力になりました。治療と並行して、オリジナル曲の制作にも取り組みました。ピアニストの山野友佳子さんに楽曲提供をお願いし、抗がん剤の投薬期間には山野さんが作曲し、私が動ける休薬期間に歌詞を載せてフィードバックを返す、というやりとりを重ねました。抗がん剤治療は回を重ねるごとにつらさを増していきますが、それと同時に作品が少しずつ形になっていくことで、「前に進んでいる」という実感を持つことができました。その曲は、「タダソコニ」というタイトルで、2025年9月発売のアルバム 『Dokkosa』(名義はAnerami with Asako Hirose)に収録されています。病気を経て、音楽は私にとって「表現」から「祈り」に変わった気がします。
編集部
現在、日常生活で気をつけていることはありますか?
広瀬さん
しっかり睡眠をとり、ストレスをうまく逃すことです。また、サポートがほしいときは遠慮せずにいろんな人たちにお願いしています。病気をきっかけに、人とのつながりがより濃くなり、自然と人が集まってきてくれるようになった気がします。
編集部
では、医療従事者に期待することはありますか?
広瀬さん
私の場合は緊急性が高い状況であったからこそ、迅速な判断をしなければならなかったのですが、先生のご説明を十分に理解することができませんでした。しかし、家族が獣医師ということもあり、私は医学的知見に基づいた説明を自宅で受けることができました。病院と自宅では、精神的な負担の度合いが大きく異なるので、自宅で専門家による説明を受けられる環境があれば、とっても心強いなと感じました。
編集部
また、ご自身の経験を通して、同じく病気と闘っている方々に一言お願いします。
広瀬さん
どんなときでも、まず自分を大切にしてください。今ある時間を、どうか自分のために使ってください。誰かと比べる必要も、無理に前を向く必要もありません。私は、乳がんを経験したことで「どう生きたいのか」と真剣に向き合うようになりました。そして今、私は以前よりも自分を好きになり、生きていることへの感謝の気持ちを強く持てています。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージもお願いします。
広瀬さん
「生きているだけで丸儲け」という明石家さんまさんの言葉が昔から好きなのですが、病気を経験した今、心からそう実感できるようになりました。生きていること自体が当たり前ではなく、かけがえのないこと。だからこそ、何もできない日があっても「今日を生きた」ことを誇りに思っています。たくさんの人たちに支えられて今の私があります。病気に限らず、困難な状況にある誰かの力になれたらうれしいです。
編集部まとめ
副作用のつらさ、がん治療の苦しさを体験された広瀬さんですが、この体験談では、ポジティブで前向きなエネルギーを感じられました。「今日生きたことが誇り」という言葉は、とても印象的でした。また、健康診断が「がん発見」のきっかけとなったという点で、改めて定期的な健康診断の大切さにも気づかされました。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。
記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

