“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
(写真ACより)
60代半ば、前期高齢者となったばかりの森香苗さん(仮名・65)。今話題のスキマバイトを利用して利用して雀の涙程度の年金の足しにしたいと考えた。
まずは有償ボランティアで経験を積み、いよいよスキマバイトに挑戦。ところが初体験のスーパーの厨房では立ち仕事で腰を痛めるわ、総菜作りでミスをするわで、すっかり自分がポンコツになっていることを痛感した。心身のダメージが大きく、バイト後1週間は使い物にならなかった。
(前回:「伊達に何十年も主婦をしてない」つい調子に乗ったスーパーでのバイト、ポンコツぶりが身に沁みた)
体力が回復するとともに、多少やる気が戻ってきたのは2週間後。森さんの目に入った募集は流通センターの倉庫で、これまでの求人の中では自宅から最も近い場所にある現場だった。
これがポンコツたる所以
「以前からその会社が募集しているのは知っていたのですが、早朝4時からということで、二の足を踏んでいました。それが珍しく夕方5時からの仕事だというので、これならやれるかもと思ったんです」
ただ、二の足を踏んでいたのにはほかにも理由があった。荷物の仕分けをするという業務内容と、空調のない倉庫での作業ということだ。
「仕分け自体は難しくないのでしょうが、私に持てない重い荷物があるのではないか、そして猛暑の中、夕方からの作業とはいえ、暑さに耐えられるのか。熱中症の危険があるのではないかと……」
たまたまこの日は気温が30度を下回っていた。「これはチャンス。神さまがやれと言っている」と前向き、というより自分にいいように解釈して応募したのだ。
「荷物の重さのことはすっかり忘れてポチっとしてしまって……懸念事項を簡単に忘れるところがまたポンコツたる所以なんです」
荷物が重くて運べない
タオルを首に巻き、軍手をはめた森さん。担当者から今日の仕事の内容を聞き、ポケットに水を2本入れて倉庫に向かった。
「はじめの仕事は集められた荷物を番号ごとに仕分けしていく仕事です。それ自体は小学生でもできるのですが、もしかしたら小学生よりも力のない私には、大きな荷物が問題でした」
予想していたことなのに、涼しくなったことに喜んで重い荷物の存在をすっかり忘れていた自分にあきれたが、すでに遅かった。
「夏なので、スイカなど重たい果物が結構ありました。それらは腰をかばいながら何とか運べてものの、組み立て家具が問題でした。いくつかあって、少しずつずらしながら運んだんですが、一つだけどうしても持ち上げられないものがあって……」
無理するとまた腰を痛めてしまう。それが怖くて、担当者に謝って「これだけは無理でした」と正直に伝えた。
「『使えないな』と思われたでしょう。やはりシニア女には、というより私には無理のある仕事だったんだと身に沁みました」
配達員の中には、小柄な女性もいて驚いた。
「さすがに若い女性でしたが、あんなに小柄な女性が何十キロもある荷物をトラックに乗せて、下ろして配達までするんですから信じられません。男性でも明らかに私より年上の人もいて、この暑さの中頑張っているなと頭が下がりました。同時に、70歳を超えてもまだまだ頑張って働かないといけない人がこんなにもいるんだと思えたのですが」
大物の荷物の後は軽作業が多かったが、途中で頭痛がはじまり、「すわ、熱中症?」と焦る場面もあった。涼しかったとはいえ、夏、空調の効かない場所での肉体労働はやめておこうと決心した森さんだった。それからこの現場の求人はスルーし続けている。

