相手に要求を飲ませるための戦略カード?
さて、以上を「階級意識」とするならもう一つの現代的要因「実利的戦略」とは何でしょうか。これは、女性が性欲に対する忌避という心理を超えて“戦略的カード”として活用するようになったという指摘です。
マチアプに代表される過剰な自由恋愛市場においては、前述の通し少しでも良い条件を相手の男性から引き出せた女性こそが真の勝者。その際に最も重要かつ有効な取引材料となるのが、相手の性欲に応えるか否かです。
例えば、Xに散見される「普段から配慮を感じられなくなったら冷めるし、怒りで体が受け付けなくなる」「女性にとっては日頃の行いが全て。家事や気遣いが足りなければ嫌悪感しかない」「(行為を)拒否するのは、面倒くさいからではなく相手への怒りから」「あんなオトコに応える義理はない」といった意見は、相手の平素の振る舞いが性行為の“交換条件”となる心理を如実に表しています。
すなわち、女性がパートナーとの関係性を有利にコントロールしようとする戦略的側面を示唆しており、その傾向を裏付けるように近年では、妊娠や出産を経験した妻にお祝いや感謝を込めてジュエリーなどのプレゼント贈る「プッシュギフト」が盛んに取り上げられるなど、女性の要求がつり上がっているとの指摘が増加傾向にあるようです。
性の悪循環を断ち切るため、男女がすべきこととは
しかしながら、このような女性の“戦略”は、少なくない数の男性からさらなる反発を招いているのも事実です。「どこまでつり上がるか分からない要求を飲むくらいなら、パートナーは要らない。一人や男友達といるのがいい」「“くれくれ”ばかりで浅ましい」など、逆に男性から女性に嫌悪を向ける要因にさえなっているのです。
男性を疲弊させる“くれくれ”の実態については、マチアプだけでなく「夜職」「パパ活」など性を換金する女性の実態がSNSなどで広く知られるようになったことなども関係していると思われますが、それについてはまた別の機会に譲りたいと思います。
女性が性欲を「汚いもの」と位置付け、その忌避感をパートナー(候補者含む)への“条件闘争”“奉仕要求”という実利的カードとして活用するほど、男性側はそうした振る舞いを「浅ましい欺瞞」として嫌悪し、両者の対立を悪化させるという「性の悪循環」が生まれているのです。
この悪循環を断ち切るには、女性側が性欲を「汚い煩悩」ではなく「人間的な欲求」と自覚すること、そして男性側が、女性側がしばしば主張する性欲嫌悪につながる「出産・育児リスク」に理解を示しつつ、過度なつり上げはスルーする冷静な姿勢を見せることも必要かも知れません。
SNS上で互いを否定し合うだけでは、自由恋愛市場の過剰化がもたらした男女対立と不信感をさらに深めることにしかならないでしょう。
(山嵐冬子)

