物価高でも給食に本気、「治安の悪いまち」足立区が"日本一おいしい"に託す未来

物価高でも給食に本気、「治安の悪いまち」足立区が"日本一おいしい"に託す未来

●栄養士の連携と予算確保

月に一度の検討会では、各校の栄養士が集まり、成功例や失敗例を共有し、塩分基準をクリアする工夫などを議論する。

経験の浅い栄養士には、ベテランが巡回して助言し、学校間の質のばらつきを防ぐ取り組みもしている。

2023年度から給食を無償化した足立区だが、物価高は予算を直撃している。今年度の食材費に約28億円を計上し、昨年度より3億円増加した。1食あたり415円(前年度より50円増)を確保した。

稲葉さんは「牛乳1本分くらい増えていたので、最初は間違いかと思った。作りたい献立を作れるので感謝している」と喜びを語る。地元業者も協力し、新鮮な食材を安く提供している。

こうした取り組みにより、区の平均残菜率は2023年度に3.5%となり、「日本一おいしい給食」を掲げる以前と比べて大幅に減少した。

●「おいしい給食」が区のイメージアップに

足立区は「治安・学力・健康・貧困」といった課題を抱える。生活保護受給率は、東京23区で最も高い水準である33.9%(東京都福祉局『令和5年度福祉統計年報』)。

松本課長は「子どもにとって学校給食は、食べたことのないものを口にしたり、食事のマナーを学んだりする機会にもなっている」と話す。

取り組みは、区全体のイメージアップにも貢献している。区の世論調査では「足立区を人に勧めたいか」という質問に「はい」と答えた割合は2010年の29.1%から、2023年には44.4%へと大幅に上昇した。

給食の人気は区外にも広がっている。2011年発売のレシピ本は7万部を売り上げ、昨年12月には第2弾が発売された。

2022年からはセブンイレブンとコラボ商品を展開。看板メニュー「えびクリームライス」は約1200店舗で販売された。

シティプロモーション課の栗木希課長は「足立区といえば給食、と話題に上ることも多く、漠然と持たれていたマイナスイメージが、ポジティブな事実で上書きされていると感じる」と話す。

今後は「おいしい給食」を軸に「真に子育てしやすいまち」を掲げ、さらなるイメージ向上を目指す方針だ。

学校給食法には「学校生活を豊かにし…」と記されている。足立区の給食は、子どもたちの胃袋を満たすだけでなく、地域の未来を育む確かな力となっている。

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