発達障害の方の多くが、音や光、匂いなどに敏感な「感覚過敏」や、逆に鈍さを感じる「感覚鈍麻」を抱えています。これらの特性を無視した環境では、ストレスやパフォーマンスの低下につながることも。本章では、感覚特性に応じた適切な環境配慮の方法を解説します。

監修医師:
三浦 暁彦(医師)
2018年富山大学医学部医学科卒業。慶應大学病院、国立病院機構久里浜医療センター、国立国際医療研究センター国府台病院等で研鑽を積む。自身が不登校、うつ病となった経験から、誰でも気軽にかかれる医療を目指して2023年6月に「おおかみこころのクリニック」を開院。医師偏在等の精神科医療の問題点を克服するため、遠隔診療の研究にも従事し、2025年9月にAIを用いたオンライン診療所「ココフィー」をリリース。著書「脱うつのトリセツ」
【資格】
日本精神神経学会 専門医
発達障害の感覚特性と環境への配慮
発達障害の方の多くは、感覚過敏や感覚鈍麻といった感覚特性を持っています。これらの特性を理解し、適切な環境配慮を行うことが重要です。
感覚過敏への対応
感覚過敏は、通常の人よりも特定の感覚に対して敏感に反応してしまう状態です。
聴覚過敏では、エアコンの音や蛍光灯の音、人の話し声などが苦痛に感じられます。職場では、静かな環境で作業できるスペースを確保したり、ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを使用したりすることが効果的です。
視覚過敏では、蛍光灯の光がまぶしく感じられたり、人の動きが気になって集中できなかったりします。デスクの位置を窓際から離したり、パーティションを設置して視界を遮ったりすることで改善できます。
触覚過敏では、特定の素材の衣服を着ることができない、人に触れられることが苦痛といった症状があります。制服がある職場では、素材の異なる代替品を用意したり、握手やハグなどの身体的接触を避けたりする配慮が必要です。
嗅覚過敏では、香水や柔軟剤の香り、食べ物の匂いなどに強く反応してしまいます。職場では香りの強い製品の使用を控えめにしたり、換気を良くしたりすることが重要です。
味覚過敏では、特定の食べ物を食べることができない、食事の時間が苦痛になることがあります。歓送迎会や懇親会では、メニューの選択肢を増やしたり、参加を強制しないような配慮が必要です。
環境調整の重要性
発達障害の方が能力を発揮するためには、環境調整が重要です。物理的環境では、整理整頓された空間、必要な物品が決められた場所に配置されていること、集中しやすい静かな環境などが求められます。
作業環境では、一人ひとりの特性に合わせたカスタマイズが効果的です。例えば、視覚的な情報処理が得意な方には図表やフローチャートを多用した資料を提供し、聴覚的な処理が得意な方には口頭での説明を重視します。時間的な環境調整も重要で、十分な作業時間の確保、休憩時間の設定、予定の事前通知などが必要です。また、急な変更がある場合は、できるだけ早めに伝え、変更内容を具体的に説明することが大切です。
人的環境では、理解のある同僚や上司の存在が重要です。発達障害についての基本的な知識を共有し、適切なコミュニケーション方法を身につけることで、より良い職場環境を作ることができます。
まとめ
発達障害は決して珍しいものではなく、適切な理解と支援があれば、その方の持つ能力を十分に発揮することができます。大人になってから発達障害に気づいた場合でも、遅すぎることはありません。自分自身の特性を理解し、適切な環境調整や支援を受けることで、より良い生活を送ることが可能です。周囲の理解と協力も得ながら、一人ひとりが自分らしく生きられる社会の実現が重要です。
参考文献
厚生労働省 発達障害の理解のために
国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害情報・支援センター」
日本発達障害学会

