専業主婦の親友とケンカした翌日、思わぬ人からメッセージが
チサトともめた翌日。今日も一日が慌ただしく始まって、慌ただしく終わろうとしている。夕食はデリバリーを頼んだ。昨日のことで、モチベーションが上がらず、何度も迷って、結局注文した。
バカみたい。こんな時こそ奮起して、普段はできないような料理を作ってみんなを喜ばせたかったけど、どうしてもできなかった。
チサトのパエリアや豚バラ大根を思い出してしまって、何か作ろうとすると、手が動かず、ついにできなかった。近所の中華料理屋さんから料理を頼んだら、子どもたちは大喜びだった。あまりの喜び様に、それも私にはちょっとキツかった。
皿を洗ってソファーに座ると、スマホが鳴る。差出人はチサトの夫・タケシだった。チサトの結婚前、4人で何回か会ったことがあって、飲み会では意気投合したような記憶も。でも、もうずいぶん会っていない。
嫌な予感がして、メッセージを開きたくなかったけれど結局開いた。
タケシ「昨日はチサトが気まずくしちゃったみたいで、ごめんね」
タケシ「チサトはナツミちゃんのこと心配だったんだと思う。ナツミちゃんが働きづめで心配だって、前から言ってたから」
心配?何が心配なの?私だってちゃんと子どもたちを見てるのに。返信していないのにタケシからはどんどんメッセージがくる。どうやら夫としてどうにか仲裁してやろうと思っているように感じた。
タケシ「チサトはナツミちゃんみたいに仕事と育児なんて両立できないからさ、なんか気にしちゃったんじゃないかと思うんだよね」
チサトは両立できない?いや、チサトは主婦を選んでいるだけで、働くことだってできる子だと思う。少しチサトをバカにするようなタケシの発言には、チサトとケンカ中でもイラっとしてしまった。
タケシ「こんなふうに心配する友達ってあんまりいないと思うからさ、俺としては仲直りしてくれたらと思ってる」
タケシからのメッセージはこれで終わった。確かにそうかもしれないけれど、タケシの仲裁にはあまり効果が感じなかった。
「ありがと、がんばる」
そう返すのが精一杯で、スマホを伏せた。
大好きな仕事を否定された私に、夫は…
この日は子どもたちを寝かしつける担当だったトオルが、寝かしつけ語、私の隣に腰をかけて話を聞いてくれた。
チサトに言われたことを一部始終口にした瞬間、涙が込み上げそうになった。
「子どもに対する愛情が不足してるとかさ、仕事やめたらいいのにとかさ…」
声が震えた。トオルは黙ってすべて聞き終えると、きっぱり話し始めた。
「うちの子が落ち着きないのも、繊細なのも個性でしょ?俺も子どものころから落ち着きなかったけど、母さんは主婦だったよ。
子どもの特徴を親が理解して、いい方向に導いてやればいいじゃん。仕事がよくないなんてことは絶対ないよ」
熱のこもった真剣な目で、子どもたちの写真を見つめながらトオルは言う。
「チサトは時間や手間をかけてがんばってる。ナツミはナツミで、働いて家を回してがんばってる。それでいいじゃん」
胸の奥がじんと熱くなった。夫はチサトとも私とも同級生だから、2人のことをよく知ってくれている。夫の話はスッと心に入ってくる感じがした。
「ナツミは頑張ってくれてるよ。フルタイムで働いて、家事して子どもの面倒みてさ。あと俺の面倒も…」
そう言って笑った顔を見て、やっと少しだけ笑い返せた。

