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公開 2017年06月13日  

どう考えてもしゃべりすぎた。恥ずかしい、でも、スッキリ。/連続小説 第14話

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妻キリコの急な入院により、ワンオペ育児状態となった満。初日から散々苦労するのだが、さらに悪いことに自分が発熱。そして息子の奏太も発熱してしまう。激混みの小児科の診察の帰り道、疲れ果てた満と奏太は行きつけのカフェへと向かう。するとそこには、見覚えのある女性がいた。


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久々に熱を出して朦朧とする中、激混みの小児科待ちを体験した俺は、救いを求めるようにいつものBun'kitchenに向かった。

そしてディナータイムで満席の店内で相席を勧められると、そこにはどんよりとした雰囲気の女性が一人で座っていた。

店主  「相席よろしいでしょうか」

店主の声にこちらを向いた女性は…。
(あ…、ケンゾーの彼女。なんだかいつもと雰囲気が…だいぶ違うような)

まったく整えていない髪を無造作に団子状に束ね、決してお洒落とは言えない形の黒ぶち眼鏡、白いTシャツの上に、まさかとは思うが高校の頃から着ていそうなジャージ、淡い色のジーパンを履いている。
(俺が知ってるケンゾーの彼女はもっとフェミニンな感じじゃなかった?)

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様々な疑問を抱えつつ、俺はソファーに奏太を下ろし、借りたブランケットを掛ける。

そしてその横に腰を下ろすと、早智が口を開いた。

早智  「………こんばんは、満さん。なんだか顔色が悪いですね、どうしました?」

(君も大分どんよりしてますけど…)

   「あー…うん、ちょっと熱があって。あと奏太も熱が出てたんだけど」

早智  「えっ、大丈夫ですか? …ちょっと待ってくださいね」

早智はそういうと、綺麗なキャメル色のレザーバッグからマスクを出し、装着した。
(バッグだけはそのまま持ってきたんだな。これ、どこのブランドだっけ? 確か…)

バッグをじっと見ていると、早智が俺に頭を下げる。

早智  「気に障ったらすみません。しかし私も風邪が移って仕事を休むわけにはいきませんので」

   「…ん? あ! いやいや、どうぞマスクしてください」

早智  「そうですか。では、熱の話の続きをどうぞ」

   「あー…熱の話ね。いやー…なんだかんだあってさ。今日、奏太を公園に連れて行ったら、奏太が公園内の小川に入っちゃって。着替えがないから、俺も止めに入ったら、俺も濡れちゃって。でも、でもね、その時はキリのママ友って人たちが助けてくれてどうにかなったんだけど」

早智  「それは良かったですね」

   「やー、ほんと助かった。あ、あとね、昨夜ね、お風呂に入ろうと思って裸になったら、寝たはずの奏太が起きてグズっちゃって。ほら、キリがいない夜なんて、奏太にとってはほぼ初めてだったから」

早智  「なるほど」

   「でさ、今日の夕方になったら、奏太まで熱出して吐いちゃって」

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早智  「それは大変でしたね」

   「大変なんてもんじゃないよ。小児科に連れて行ったら、信じられないほど混んでるし。二時間も待ったんだよ? 二時間。風邪菌がうようよしてるところで二時間」

早智  「それはそれは」

   「しかも、やっと診察になったら、だいぶ奏太の熱が下がっててさ。原因は疲れだろうって言われて終わり」

早智  「キリコさんが急にいなくなって、そのストレスというか、知恵熱的なものだった、ということでしょうか」

   「そうそう。 しかも待ってる間に、病院内のキッズスペースでほかの子とおもちゃの取り合いになってさ。相手の子が次から次へと奏太の持ってるおもちゃを取っちゃうわけ。俺はなんかだんだん腹が立ってきてさ。でも相手の子の母親はぜんぜん子どものことを見てなくて、スマホずーーーっといじっててさ。奏太も我慢の限界だったんだろうな。持ってたおもちゃを取られそうになって、相手の子を突き飛ばしちゃったんだよ。いや、突き飛ばした、は大袈裟だな。軽く押しちゃったんだよ。そしたら相手の子が大泣きして。やっと子どもを見た母親が『どうしたの? やられたの? でもやり返さなくて偉かったね。手を出す子よりお利口さんだよ』って俺に聞こえるように言ってさ」

早智  「それは、納得いきませんね」

   「だろ!? あー、なんかスッキリした!」

満面の笑みでそう言ったあと、俺はハッとして固まる。
(大して話したこともない女の子に、うっかりすごい勢いで話してしまった…。でも、聞いてもらうだけでこんなにすっきりするんだな)

   「…なんか、ごめんね一方的に話しっちゃって。とにかく自分が体調悪い時に、家事も育児もやって、完全にいっぱいいっぱいな一日でした…」

早智  「ふむ」

早智は一瞬、空を見つめると、バッグからボールペンを取り出し、テーブルの上にあるペーパーナプキンに何かを書き始める。

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早智  「満さんの今の問題点はこの四つです。これを解決すれば、明日から同じミスはありません」

   「はぁ…そうだね。でもどうしたらいいんだろうね。奏太が寝ている間に、ネットで検索かな」

俺がスマホを見ようとすると、早智はそれを阻止し、ゆっくりと頭を振る。

早智  「これ簡単に解決する方法が一つだけあります」

   「え、なに?」

俺は息を飲んで早智を見つめる。

早智  「キリコさんに聞くことです。キリコさんは現にこれらをこなしています。母親ですから、すべての答えを知っている方です」

経験の差があるという意味で、その答えはおそらく正しいのかもしれない。でもなんだかしっくりこなかった。
(…すべての答えを知ってるって。キリはスーパーマンじゃないぞ。そんな簡単に言うなよ…)

   「いやー…そうだけど。そうかもしれないけど…。キリだって元は早智ちゃんと同じ、ただの女の子だったし、親になったのもまだ3年目で、色々積み重ねて試行錯誤して今のキリがあるわけで、いや今だって苦労しながらやってると思うよ。」

(…自分で言っといてあれだけど、本当そうだよな。母親になったからといって急に万能になるわけじゃない)

早智は反論する様子で口を開いたが、一瞬の間があり、息を吸い込んでから、再度口を開く。

早智  「…そうですか。いいですね、なんか、分かり…あえてい…る…という感じで。…っう、 
っう…うわぁーーん」

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   「なになに、どうした!?」

早智  「私…やってしまいました」

早智が突然泣き出したので慌てて事情を聞くと、彼氏のケンゾーとのことを話しだしたのだった――。

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