静岡県在住の主婦・松永さんがはじめた、すてきな習慣。
それは、子育て中に拾ったわが子の「ことば」を書き残すことでした。
たくさんの言葉が書かれたノートは、こどもたちが大きくなってから一人ひとりに手渡されました。
どうしてそれが始まったのか。そして当時、ノートをもらった子どもたちの反応は?
松永さん親子にお話を伺いました。
「子どもたちにも、夫にも秘密だった」こどものことばアルバムのモデルとなった主婦に話を聞いた
4,246 Viewこどものことばを写真のように残していく「こどものことばアルバム」。プロジェクト発足のきっかけとなった静岡県在住の主婦・松永さんと、娘のひろのさんに、取り組みの経緯を聞きました。
子どもたちにも、夫にも秘密で始めたこと
——とてもお洒落してきてくださって、ありがとうございます。
母 大丈夫かしら。よろしくお願いいたします。
——松永さんが作成していたという「ノート」ですが。この「ことばをのこす」という取り組みに、当時からなにか名前はあったのでしょうか。
母 いえ、名前なんてまったくありませんでした。最初は淡々とはじめたので……。元々は出産した際に病院から『育児日記』っていうのをもらって、そのノートに子どもたちの言葉を書き留めていたんです。ただ、どんどん子どもたちが面白いことを言ってくるので、それならば別のノートにちゃんと書いた方が良いかなと思って。
——ああ、そういうスタートだったんですね。
母 私、すぐいろんなことを忘れちゃうんですよね。そういう理由もあって、これを書き始めたっていうのもあります。それでまた、へそまがりでもあるので、子どもたちにはもちろん、夫にも誰にも言わずに隠してやってたんですよ。そのこともあって、余計に続いていたのかもしれません。
秘密のノートに、もともと目的はなかった
——最終的には、兄弟3人分を作成されたとお聞きしました。
母 はい。ずっと3人分を一つのノートにまとめて書いていて、渡す時に新しいノートに書きなおしました。その時に初めて子どもたちにノートの存在を教えたんです。
娘 そうだったね……。あの時は、こんなものを秘密で…。いつのまに作ったんだ!? って思いました。
母 最初はこのノートを子どもたちに渡す目的はなかったんですよ。でもある時ふと、これを子どもたちが大人になってから渡したらきっと面白いだろうなと思って。そう決めてからは、余計にみんなに内緒がいいなって。
娘 でもこれって、いつ書いていたの?私たちが寝てからとか?
母 そうねぇ……。今だから言えますが、子どもたちが言った瞬間に書くと存在がバレちゃうし、かといって子どもが言ったニュアンスが変わってしまうのも嫌だったので、頭の中で何回も唱えながら頑張って記憶してその場から離れて、隅っこでこそこそ書いていました。そして書き終わったら誰にも見つからないところに保管して……。
娘 そうだったんだ……。あの頃は全然気付かなかった。
——そうやって普段の会話と同じように「自然体」でいたから、良い言葉を拾えたんでしょうね。ずっと言葉を拾うことを意識してばかりだったら、またちょっと違ったことになっていたかも。
母 そうですね、とにかく子どもたちが喋った「そのままの言葉」で書きたかったんです。何気ないふとした会話の中で生まれる、その時の空気感を大事にしていました。
——実際に子どもたちにノートを渡した際、どんな反応をされたか覚えていますか?
母 あのね、もう、忘れちゃいました……(笑)
娘 (笑) 母からもらったのは、たしか私が中学生くらいの時だったと思いますよ。
母 そうだったかしら……。それも覚えてない。
娘 小学校高学年になると、だんだんと面白いことを言うのを卒業していくから、そのタイミングで渡したと言っていたような……。
今読んでみても、おもしろい「ことば」たち
——そのノートが、先日『松永家の こどものことばアルバム』(自費出版)という本にもなりましたね。年月を重ねた「ことば」たちを、改めて読んでみた印象を教えてください
母 あの頃はまさか「本」なるなんて思ってもいませんでした。ただどの言葉も、「何回読んでも面白いなぁ……」って思いますね。
——写真のアルバムと同じように、何回も見返すことができますものね。
母 そうですね、それに加えて、この当時子どもたちが普段どんなことを考えていたのだろうかってことを思い出すことができるので。例えば子どもに書かせる作文とかは「よく考えて書く」じゃないですか。でもこのノートに記されているものは、パッと会話の中で出てきた何気ない言葉なので、あの頃をそのまま思い出すことができるんです。
——うん、うん。
母 ただ、ノートを作った細かい経緯とかはあんまり覚えていないんですけどね(笑)なぜ始めたのかはノートに記していなかったので……。
——でもそれがきっと大事なことですよね。「子どものため」っていうよりも、ご自身が楽しむためにやっていたというのが。
母 ええ。実際に秘密にしていたこともあったので、私自身がとても楽しんでいたんだと思います。だから渡した時もそれ自体にちょっと満足しちゃってて。あ、そうか、それで子どもたちの反応は覚えていないのかもしれませんね(笑)。
——なるほど(笑)。
母 「覚えてない」ばかりじゃ、記事にならないわね。
——いえ、いまのお話がとっても、面白かったです。ありがとうございました。
(文:長橋諒 編集:渡辺龍彦)
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