桜の咲く頃、無事に女の子を出産した。
出産時にかかった時間的には順調だったが、
赤子が大きめだったので
文字通り息も絶え絶え、な出産だった。
母になり知った、「1ヵ月後に予定がある」という喜び / 4章
27,310 View生まれたての赤子を抱いて、母としての私もまた生まれたてのような心もとなさ。生活はがらっと赤ちゃん一色に変わったけれど、心がついていかない。そんなときに出会った、自分を取り戻すヒント。
出産、そして産後のダメージ
出産自体も大変だったけれど、
想像以上だったのは産後の体のつらさ。
「出産は、全治2ヶ月の交通事故に
あったレベルのダメージ」
という喩えを聞いたことがあったが、
交通事故にあったことはない私でも
こういうことかと
納得せざるを得ないつらさだった。
子宮の収縮でお腹が痛かったり、
慣れない授乳で胸が痛かったり。
骨盤がゆるんでいて腰も痛いのに、
赤子は昼夜問わず抱っこ
(しかも立って歩かないとだめ)を
求めてくる。出血も続く。
産後の母親が
つらい気持ちになりやすいのは
ホルモンバランスが急激に変化するためだとか、
慣れない赤ちゃんの世話で
寝不足だからだとか聞くけれど、
仮にそれらがなかったとしても、
単純にあれだけの身体的ダメージを食らって
1ヶ月出歩けない状況になったら、
それだけでじゅうぶん
鬱々とするんじゃないかと思った。
そして、産んだその日から
(つまり身体的ダメージがMAXの日から)
自分の横には赤子がいる。
生まれたての赤子は
乳を飲むのも排泄をするのさえも
ぎこちなくて、
ちょっとした手違いで
死んでしまうんじゃないかと
不安で目が離せない。
寝ている赤子が息をしているか
確認するという話を聞いて、
産む前は大げさだよと思っていたけど、
産後ほんとうに頻繁に
確認せずにはいられなかった。
私は実家に里帰りしていたので、
母が身の回りの世話をしてくれて
生活の上での不自由はなく、
話し相手にもなってくれた。
それでもなお、
自分史上最長の体調不良と、
自宅軟禁状態と、か弱い赤子に感じる不安、
そうした状況が重なって、
今振り返ると、
見えないエアバッグに
ゆるやかに圧迫されているような
重たさがあった。
母としての実感が湧かない
そして、出産したにもかかわらず、
自分自身に「母になった」という実感が
いまいち湧いてこない。
赤ちゃんは、かわいい。
とっても、かわいい。
だけどそれと同じくらい、
もしくはそれ以上に、
死なないだろうかという不安を
感じさせる存在でもある。
赤子が泣けば、
すぐにおむつを替えたり授乳したり、
抱っこしてあやしたり、
最善を尽くした。
自分にしてはかなりまじめに
取り組んだと思うが、それは
「こんな私が母親で、申し訳ない」
という、子どもに対する
うしろめたさを
少しでも紛らわせるためでもあった。
好きな歌を歌ってみた
出産して、必死に世話もしているが、
それだけではどうも自分が
「お母さん」になれているか
自信がなかった。
赤子がぎゃんぎゃん泣くので
落ち着いてほしくて子守唄を歌ってみるが、
私は子守唄を1曲しか知らない。(歌詞もうろ覚え)
しかも、ぎゃん泣きのさなかでは、
ゆったりした子守唄なんて
かき消されてしまって
まったく赤子に届いていないようなので、
歌う気力もすぐに尽きてしまう。
そんなことを数週間続けて、
ついに効き目のない子守唄に嫌気がさした。
私はYoutubeを流し、
好きな映画のサントラ、
ミュージカルの曲、
カラオケの十八番のJ-popなどを
思いつくままにかけながら、
ぎゃん泣きに対抗する気持ちで大声で歌い、
抱っこしたまま歩いたり、
くるくる回ったりした。
結論から言うと、
泣き止むかどうかという点において、
子守唄だろうとにぎやかな音楽だろうと、
選曲による違いは見られなかった。
私が何を歌っていようと
歌っていなかろうと、
赤子は泣きたいだけ泣いて、
永遠に泣いているのかと思った頃
なんとなく眠る。
それならば、もう
私の趣味でやらせていただこうと思った。
少なくとも、
自分の好きな歌を歌って
それに合わせて揺すっているあいだは、
いつもより抱っこを軽く感じたのだ。
(ディズニーソングが多めだったのは、
私なりのささやかな配慮)
帰ってきた夫は
泣き声と熱唱との
あまりのやかましさに
驚いていたけれど、
夫の好きな曲をかけたら、
振り付きで赤子に向かって
パフォーマンスしてくれた。
赤子はなかなか泣き止まなかったけど、
それはそれとして、とても楽しかった。
私まで踊ってしまい
体調が悪化したけれど、
気分は爽快だった。
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