――ゆっくりと瞼を開くと、部屋の中は真っ暗になっていた。
今、何時? スマホを見ると「17:32」と表示されている。
私…4時間も寝てたんだ。
奏ちゃん、大丈夫かな? 起き上がろうとして、右隣に奏太が寝ていることに気づいた。
小さな寝息を立てている。その優しい寝顔に触れる。まつ毛は濡れてない。泣いたりしてなかったみたい。良かった。
そっと布団を出て、寝室のドアを開けると、キッチンから揚げ物のいい香りがしてくる。
パチパチパチと油の音、トントントンと包丁の音。誰かがご飯を作る音ってこんなに温かい気持ちにさせてくれることを、ふと思い出す。こんな気持ちになるのは子どもの頃ぶりかも。
キリコ 「…すいません、寝てしまって」
料理をしている義母に声をかけると、「起きた?」と微笑まれて、私はなんだか恥ずかしくなる。
真由美 「奏ちゃんといっぱい遊べて楽しかった~。ずっとね、遊びたいなと思ってたから」
キリコ 「………」
真由美 「お兄ちゃん家族には色々してあげられてたけど、満やキリコちゃんには何もしてやれてなかったからさ。奏ちゃんにもやっとおばあちゃんらしいことできて嬉しい」
キリコ 「………」
真由美 「今、温かいお茶入れるから、座ってて」
キリコ 「はい…」
言われた通りこたつに入り、夕方のニュース番組をぼんやりと眺めた。そして義母が入れてくれた温かいお茶を飲みながら、無意味に義母を面倒だと思っていた自分に恥ずかしくなる。
私にとって義母が他人であるように、義母にとって私だって他人なのに。それでもこうして接してくれているのに。
真由美 「夕飯、奏ちゃんがから揚げ食べたいっていうから、から揚げにしちゃったんだけど、キリコちゃんは胃に優しいものがいいよね。玉子雑炊でも作ろうかな?」
キリコ 「…すいません」
真由美 「どう? 体調は?」
キリコ 「よく寝たら、少しすっきりした気がします」
この1週間、体も心も頭の中もテンパっていたけど、少し落ち着きを取り戻しだした感じがする。
公開 2018年03月06日
ママを2時間休む。それだけで気持ちが軽くなった。 / 第9話 sideキリコ(2ページ目)
41,545 View奏太の気管支炎に続き、39度の高熱になったキリコ。気を遣うからやめて…という願いも虚しく、明日も休日出勤の満は、岐阜でラーメン屋を引退した母・真由美にヘルプを出してしまう。真由美は円田家に来るのも泊まるのも初めて。おばあちゃんが遊びに来てくれて喜ぶ奏太を横目に気が重いキリコだったが…。
※ この記事は2024年10月01日に再公開された記事です。
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連載「家族の選択」
#9
さいとう美如
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