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公開 2018年03月09日  

やりたい仕事と家族の時間。両方はやっぱり高望みなんだろうか。 / 第10話 side満

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スタイリストの派遣会社・フリープランでマネージャーをしていた満は、社長の頼みを断ることができないまま、高級クリーニング店ララウと共同で始める「服のお直し」の新規事業の担当になってしまった。服を作るのが大好きだったはずなのに、やっているのはお直し業務の依頼をメールや電話で受け付ける仕事…。やりたかった仕事とどんどん離れていくことに悩む満に1本のメッセが届く―。


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第10話 side 満



よく晴れた12月のある日曜日。

本当なら、こんな日は奏太と外遊びがしたい。全身で「楽しい!」を発する奏太が見たい…。



住田  「そうですかー、家賃けっこうしますね。やっぱりまずはうちの会社の会議室でやってみるのがベストかもしれませんね」

   「……え?」



新豊洲駅にある衣類高級クリーニング専門店・ララウ本社の会議室でちょっとぼんやりしていた俺は、ララウの担当者である住田の言葉で我に返った。だってこんなに天気がいいから…って、え? 今、なんて言いました?



住田  「昨日の夜、社長同士で話して決めたらしいですよ。満さんが問い合わせ担当ということでララウにデスクを作る、って話もありました」



…そんな話は一切聞いてません。そちらの社長はすぐに話をしてくれる人でいいですね。



   「…すみません。確認します」



打ち合わせが終わりララウを出た俺は、海風が吹く道を駅まで歩く。


日曜日の今日、俺は朝イチで作業場予定だったマンションの内見をし、業者に行ってミシンなどの道具を見てきた。

あんなに熱をもって触れていたミシンに、今は「休日出勤しんどいよ」という思いで触れなければいけないことが切なかった。

誰かが言ってましたよね? 夜明け前が一番暗い、と。今、それなのかな? 

だって、俺、スタイリストのマネージャーを外されて、新豊洲のララウ本社でお直し業務の問い合わせ担当するんだって。おれどこの社員なの?



   「…はぁ」



大きなため息を吐きながら、駅前の自販機でホットコーヒーを買った。まさか定年になるまでこの自販機にお世話になるってことは…ないよな?


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――これでいいのか、俺。

と、思いつつ何もできず、気づけば2017年が終わり、2018年が始まって10日ほど経っていた。



新規事業が始まって、俺は自分が働くフリープランの事務所ではなく、新豊洲のララウのオフィスで毎日洋服のお直し依頼の受け付けをしている。

もはや俺は何者なのか。分からない…。分からない…。分からない…。ぜんぜんまだまだ夜明け前な感じ…。真っ暗な俺の世界…。



少し明るくなったことと言えば、キリが熱を出した日をきっかけにキリと母ちゃんの距離がどうやら縮んだこと。

俺を挟まずに2人でやり取りして、たしか今日も母ちゃんが何かの用事で都内に来るからうちに泊まるって言っていた。何の用だったかまでは覚えてないけど、たしか今日だったと思う。



   「…はぁ」



定時で会社を出た俺はいつものように駅前の自販機でホットコーヒーを買う。

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駅の改札を入って電車を待ちつつ、コーヒーを飲んでいると、自称ラッパーのタカヒロからスマホにメッセが届いた。



メッセ 「お疲れメーン。前に話したK.Dと久々に飲んでみっつーのこと話してみたんだぞい! K.DがさっそくみっつーのPCメールに転職情報を送ったらしいからYO! チェケラ! してくれるかい?」



なんだ、K.Dって。

…あぁ、先月地元で江原とタカヒロと3人で飲んだ時に言ってた転職エージェントのことか。

…すっかり忘れてた。地元に俺のやりたい仕事なんてないだろ…。


そう思いながら俺はホームのベンチに座り、スマホからメールを見た。



   「…うわ」



K.Dこと、土井和夫が送って来た求人情報はこうだ。



・名古屋にあるフォトスタジオ
・撮影の世界観を大切にしていて、衣装やセットなどをこだわれるお店
・現在のスタイリストが辞めるため、新しいスタイリストを募集
・時には衣装を作ることもあるので、専門の技術がある方優遇



なんだろう。まるで誰かに一目ぼれしたような、そんなワクワク感。


36歳にもなって、心が躍る。客が作りたい世界観に合わせて衣装を決めたり、作ったり。考えただけで楽しい。

と思いつつも…給料を見た俺は一気に冷静になってしまう。けっこう下がるな…。


冷たい空気と共にやってきた電車に乗り込み、窓の外にいくつもあるビルを眺めながら思い出す。

東京で成功するんだ! と田舎から出てきた何も知らない真っ白な青年。

色々あったけど、今もこうして都内で頑張ってる。これまでの自分に多少の誇りはあるし、ここで終わっていいのか俺、という気持ちもある。

でも…今やってる仕事は正直、楽しめない。これがもし定年まで続くならしんどい。


でもでも…本当に都落ちしてしまって、後悔しないのか分からない。これまでフリープランで頑張ってきて、スタッフたちともうまくやれてるのに。みんなに迷惑をかけることはしたくない…。


でもでもでもでもでもでも…。

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※ この記事は2024年10月05日に再公開された記事です。

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