奏太 「…ママ」
小さな声で呼ばれ奏太を見ると、知らない場所、知らない人たちを見て表情を曇らせている。
これはいかん。私がビビっててどうする! 大丈夫だよ、奏太! ママがついてる!
受付で名前を書き、先生に言われた「くまさん」の絵がドアに貼られている教室に向かう。
うぅ…ここも固まりだらけじゃ。ひるんではいけない。とりあえず笑顔、得意の外面をキープして声をかけてみようかな…。
近くにいたママに声をかけようかと一歩踏み出すと、奏太が私の手を引いてブレーキをかける。
キリコ 「ん? どうした?」
奏太 「…おそといきたい」
キリコ 「せっかく来たんだし、あそん…」
奏太 「やだ!」
奏太が大きな声を出したと同時に、先生が2人教室に入って来た。
先生1 「おはようございま~す! どこでもいいから好きなところに座ってね」
子どもたち「はーい」
キリコ 「ほら、奏ちゃんはどの席にする?」
慌てて奏太を席に座らせようとすると、奏太の手の力がさらに強くなる。
奏太 「やだやだやだー!!」
その一瞬、教室が静まり返って、全員の視線が私と奏太に向けられた。
うわー…変な汗が出る。
先生1 「ママと一緒で大丈夫だよ」
キリコ 「あ…すみません…」
私は先生に一礼するとしゃがみ込み、どうしても席に座りたがらない奏太を抱きしめた。
公開 2018年04月10日
新しい環境で心細いのは、子どもだけじゃない。私もだ。 / 18話 sideキリコ(2ページ目)
15,889 View「新しい可能性」を考えるために、満の転職先候補であるフォトスタジオを名古屋まで見学しに行った満とキリコ。想定外に2人きりの時間を過ごすことになり、改めてお互いの暮らしの現状とこれからの人生について話し合うことになった。そしてその翌日。地元の不動産王で満の同級生・江原に案内されて実家近くの戸建ての家を内見に行く――。
※ この記事は2024年10月10日に再公開された記事です。
連載「家族の選択」
#18
さいとう美如
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