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公開 2018年04月17日  

人見知りな息子に、笑いあえる友達がいるのは私も心強い。/ 20話 sideキリコ

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岐阜への引っ越しと満の転職。大きな選択に揺れる円田家。
満の実家近くの桜葉幼稚園のプレに行ってみるも、人見知りの奏太は号泣し教室で過ごすことができなかった。知り合いがいない環境で心細さを感じたのはキリコも同じで…。仕事も家族もすべてが100点なんてムリなのかな。沈んだ気持ちのまま、新幹線で川口へ戻った翌日――。


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第20話 side キリコ

岐阜の桜葉幼稚園で疲れ果て、帰宅して泥のように眠った翌日――。

私と奏太は川口つばさ幼稚園に来ていた。

その日は制服のサイズ合わせがあって、4月に入園予定の子どもたちがママと一緒に幼稚園に集まっている。

ワイワイと賑やかな教室で我が子のサイズ合わせをするママたちは、微笑んでいたり…いうことを聞かないわが子にイライラしている人もいるけど、なんとも言えない顔でいるのは私だけだと思う。


つばさ幼稚園の制服…。

サイズ合わせしても本当に着ることになるかはまだハッキリしてない。

夫の転職がどうなるかも、あの白い家を買うのかも、まだ曖昧すぎて川口つばさの入園をキャンセルするのはムリ過ぎる。

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サイズ合わせを終え、廊下に出るといつものメンバーも廊下に出てきた。


文乃  「お疲れ~、いたんだね、気づかなった。あはは」

  「すごいごった返してるもんね。私なんて知らない子の背中で制服合わせてたよ」

キリコ  「ははっ」


思わず笑ってしまう。あぁ、心地よい。

モヤモヤしている気持ちが頭の端っこに逃げていく。


文乃  「あー、そうそう! ゴールデンウィークくらいには、恵美ちゃんがハル子ちゃんを連れて川口に遊びに来れそうだって!」

  「うわ~! 楽しみすぎるじゃん。おいしいもの食べたいよねぇ!」

キリコ  「食べたい!」

奏太  「きゃはははっ!」


笑い声に視線を移すと、奏太と歩ちゃんの息子リョウくんが床に寝転がってじゃれている。


キリコ  「ちょっと! 何してんの!?」

  「あはは。なにが楽しいの、それ」


2人は気にせず廊下をゴロゴロと転がっていく。


文乃  「ウケる!」

キリコ  「子どもって見ててほんっと面白いよねぇ」

今度は奏太とリョウくんを見ていた文乃ちゃんの娘・カノンちゃんも加わって3人で転がっている。
ほんと…何してんの。


文乃  「てかさ、リョウくん、背のびたでしょ?」

  「そうなんだよー、100サイズがジャストになっちゃった」

キリコ  「パパ似なんじゃない? パパ、180くらいあるよね?」

  「うん、あるある」

キリコ  「出会った頃は、一番小さかったのにね。大きくなったねぇ、おばちゃん感動しちゃう」

文乃  「えー、それを言うなら、奏ちゃんのが成長を感じるよ。最初に会った時は1才半くらいだっけ? あの頃はまだママから離れなかったのに、おばちゃん感動しちゃう」


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そうだった。

奏太は赤ちゃんの頃から、知らない人に声をかけられただけでイヤがって泣くような子で。

そんな奏太が不安にならないように、笑っていられるように、私もお友達作りを頑張ってきた。






みんなと2年以上一緒にいるから今は奏太が笑ってるんだよ。

お友達とはしゃいでいる奏太を見つめて、私は胸がキュッと詰まる感覚がした。


――その日の夜。

奏太が寝た後、夫とこたつでテレビのどっきり番組を見ていると、夫が「桜葉、どうだった?」と話し出した。

後回しにしちゃいけない大きな問題だけど、まだ頭の整理がついてないんだよなぁ…。


キリコ  「うーん…。園舎は川口つばさより綺麗だったし、広かったし、園庭ものびのびって感じ…」

  「そっか。奏太は?」


夫の言葉と同時に芸人が穴に落ちる。

大爆笑がテレビから流れる中、私は笑えず、言葉に詰まって頭を振る。


キリコ  「…ずーっと泣いてて…プレどころじゃないって感じ」

  「そっかー…」


わははわはは、と響くリビングで夫婦2人、黙り込む。

夫が「うるさいな」とつぶやきテレビを消す。

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キリコ  「今日さ…川口つばさで制服のサイズ合わせだったのよ。奏太、めちゃくちゃはしゃいで楽しそうで。桜葉の時とは大違い」

  「…場所見知りと人見知りがあるからね、奏太は」

キリコ  「私とパパはさ、あの戸建てがいいなぁ、とかやりたい仕事を楽しみたいなぁ、とかあるけどさ。奏太にとって引っ越しは…つらいだけなんじゃないかと思えてきたんだよね。あんなに泣かれちゃうと。正直…不安になったかな」

  「うーん…」


ハッキリと共感してくれない感じに私は少し苛立って続ける。


キリコ  「だってさ、奏太は生まれてからずっと私と一緒に過ごしてきたわけじゃん?それがさ、4月から私と離れて幼稚園にいくんだよ。それだけでも奏太にとってすごい変化なわけじゃない? 初めての集団生活だし。家で好き勝手遊ぶのとは違うしさ」

  「…そうだね」

キリコ  「それなのに、幼稚園まで変わって、家も変わって、遊ぶ公園も変わって、知ってるお友達は誰もいなくなって…。そんなにいろんなことが変わって、奏太、大丈夫かな?」

  「…」

キリコ  「私だって人間関係が一からになるわけだし…。パパだって転職したらそうでしょ? 家族全員、アウェイに乗り込んで…。あの家を買うことが家族にとって本当にベストなのかな?」


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話し出すと胸に詰まってたモヤモヤがどんどん出てきて、それを言葉にすると、自分でも自分の気持ちに気付かされる。

家が欲しいこと、仕事をしたい事。

それと奏太が笑っていられる環境。

天秤にかけなくてもどちらが大切か分かる。

奏太が悲しいと私は悲しい。

私の気持ちが伝わったのか、夫は2回うなずいた。


  「まぁね…。俺だってまだどうしたらいいのか正直わからないよ。今日ケンゾーくんたちとお昼食べたんだけど、マネージャーに戻ってほしいって言われちゃったし」

キリコ  「え、そうなんだ」

  「でも…昨日、布屋に行ってさ。あ、面接時に、自作の服を持って行くって話したよね」

キリコ  「うん」

  「久々に何作ろうとか、転職出来たらまた服を作れるんだな、とか。そう思うと嬉しかったっていうのも本当。そもそも転職できるのか、っていうのもあるけど…。でも…キリとカフェで話したことが現実になるなら、それが一番いいなとは思う。理想だけど」

キリコ  「…まぁね」


子どものことは一番に考えてる。

でも子どもを産んだ先の人生はあと何十年続くし、それをどう過ごしていくか、自分たちの気持ちを全部ナシにしていいのか…分からない。


キリコ  「逆にさ、引っ越しをなしにした場合、どうなるのかな。奏ちゃんは川口つばさに入園。ママ友は変わらず。出来るだけ安い戸建てを探して…。私は仕事…できないけど」

  「そうなると川口で家を買うのも難しいんじゃないの? いくら安いって言ってもさ、川口じゃけっこうするよね。キリにも仕事してもらわないと厳しいと思う」

キリコ  「どうにかならないかな…。ほら、市のサポートがあったよね。幼稚園終わってから奏太を預かってもらって、私は仕事を…」

  「それじゃ…なんていうか本末転倒じゃないかな。けっきょく人見知り、場所見知りのある奏太は泣くことになると思うよ」

…うっ。確かにそうだよね。

それにあれか…サポートを利用することになったら、その分の料金もあるし、それをプラスして、家を買うためのお金をちゃんと稼げるかどうか…。

それに奏太の病欠は必ずあるだろうし…。RAIRA問題に戻る…。そのループ…。

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※ この記事は2024年10月13日に再公開された記事です。

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