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公開 2018年04月27日  

これからの家族の生き方を、家族みんなで決める。 / 22話 sideキリコ(2ページ目)

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引っ越しは奏太のためによい選択なのだろうか。悩むキリコは、奏太を連れて帰省した実家で、両親が別居していた理由を知る。そしてその夜、卒業アルバムを開き、当時書いた将来の夢を思い出す。





   「2018年1月の家族会議を始めまーす」

奏太  「はーい! ママ、しゅきね」

キリコ 「書記ね。はい。私から」

奏太  「どうぞ」


私は隣に座っている奏太に体を向ける。


キリコ 「奏ちゃん」

奏太  「なあに?」

キリコ 「パパとママね、あの電車の見えるおうちに引っ越したいと思ってるの」

奏太  「あそこ、でんしゃ見えたよね。おうちからね。すごいよねー!」

キリコ 「でも引っ越したら、幼稚園は桜葉になっちゃうの」


私の言葉に奏太が分かりやすく不機嫌な表情になる。


奏太  「やだ!」


そんなこと想定内だ。ここでやめないで色々聞いてみよう。

夫と目を合わせてうなずき、私は続ける。


キリコ 「奏ちゃんがいやなのは何でだろう?」

奏太  「うーん、だってー、イヤなんだもん」

キリコ 「川口つばさがいいから?」

奏太  「うん」

キリコ 「じゃあなんで川口つばさがいいんだろう?」

奏太  「うーん、だってー、川口つばさはー、リョウくんがいるしー、カノンちゃんもいるしー、他にもいーっぱいお友だちいるんだよ。それに麻美先生もいるしー。滑り台もあるしー。ぞうさん公園もあるしー」

   「奏ちゃん、桜葉をイヤだっていうのはそれの反対ってことだよ」


奏太はハンバーグを口に入れたまま、不思議そうに夫を見つめる。


奏太  「はんたい?」

   「桜葉には、知ってるお友だちがいない、先生も知らない。だからイヤなんじゃないの?」

奏太  「うん、そうそう!」

   「でもね、桜葉にも滑り台はあるし、幼稚園の近くに公園もあったじゃん。パパと言ったところ。覚えてる?」

奏太  「うん」

キリコ 「あと電車の見えるおうちもあるよね」

奏太  「うん」

キリコ 「だからさ、今度はママと奏ちゃん2人でおばあちゃんちに泊まりに行ってみない? それでさ、電車の見えるおうちを見に行って、近くの公園も行って、桜葉の滑り台も滑ろうよ」

奏太  「うーん」


皿の上のにんじんをフォークで転がし始めた奏太に、夫はスマホでネット画像を見せる。


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   「見てこれ。桜庭のお庭にある幅の広い滑り台」

奏太  「あ、これあったよ! あったよね、ママ!」

   「あれ面白いんだよ。パパもやったことあるんだよ」

キリコ 「え、パパの時からあるの、あれ」

   「さすがに直したりしてるだろうけど、当時からあるよ」


夫が滑ってた滑り台を奏太も使うことになるかもしれないなんて、なんか感慨深いわ。


   「滑り台、面白いからやってきなよ」

奏太  「…パパも一緒に滑り台するの?」

   「ううん、パパはお仕事があるから、お休みになったらおばあちゃんちに行くよ」

奏太  「うーん」


まだ3歳の奏太に無理をさせることはしたくない。

伝えたい事は話せた。あとは奏太の答えを待ってみよう。


   「……じゃあ、目標いこっか。ママ」

キリコ 「うん、そうだなぁ…。今月もあんこものをたくさん食べて、感想をインスタに載せる、のと、料理系の雑誌をたくさん読んで、味を伝える表現力を学びたいです」


ここのところバタバタであんこを味わう余裕もなかったなぁ。

あんこ不足、あんこ切れ、あんこロス…。


   「俺は…今作ってる服を完成させる、かな」

キリコ 「何作ってるの?」

   「それは内緒ってことでお願いします。出来てからのお楽しみってことでね。はい、次、奏ちゃん」

奏太  「うーん、さむいからー、雪ふる?」

キリコ 「どうなんだろ? とっても寒くなったら降るかもしれないね」

奏太  「じゃあ、雪を…雪であそぶ!」


ステーキハウスから賃貸マンションまで家族3人、奏太を真ん中にして手を繋いで歩いて帰った。

その時はもう岐阜の話はせずに、奏太はやりたい雪遊びのこと、私が食べたいあんこのことを話した。


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キリコ 「はい、ただいま。寒かったねー」

   「あー、コーヒー買ってくればよかったな。行ってこようかな」

キリコ 「えー、じゃあ私のもお願い」


なんて話していたら急に奏太が「いいよ」と言い出した。


キリコ 「奏ちゃんもコンビニ行くの?」

   「寒いからママと家で待ってなよ。何か欲しいものあるの?」

奏太  「ちーがーうー。ママと奏ちゃんでおばあちゃんちに行ってもいいよってい言ってるの!」


…え、なに?

どうした急に、どこでスイッチ入った?

この部屋の玄関の狭さにうんざりしたのか?

あの戸建てを思い出したのか!?


キリコ 「奏ちゃん、本当?」

奏太  「パパー、ぼくにはグミ買ってきて」

キリコ 「ねえ、奏ちゃん。本当にママとおばあちゃんち行くの?」

奏太  「うん」

キリコ 「じゃあ行こう!」


私は思わず奏太を抱きしめた。

お互いの頬が触れ合い、冷たいけど気持ちがいい。

これからの家族の生き方を奏太も一緒に決めようとしてくれているようで嬉しかった。


それから義母・真由美に電話をしてすべての事情を話し、火曜日のプレに参加できるように、月曜日、義実家へ行くことにした。

私は再び家族会議のノートを開き、「ママと奏太、岐阜に慣れる」と書き足した。

そのチャレンジの中で私と奏太はある親子に出会うことになる――。

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▶︎▶︎ 次回、23話は、5/1(火)20時公開予定!

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※ この記事は2024年10月17日に再公開された記事です。

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