定休日の店内。私と中村さん、それからパートナーの田端さんで、結婚式の打ち合わせをする。
会場を飾る花に、お互いの胸を飾るブートニア、それから花束を2つ。
受け取った会場の写真を手に、必要な花を確認していく。
「派手じゃなくて、落ち着いた感じにしたいです」
そう言って田端さんが笑う。その人なつこそうな笑顔につられ、私も自然と笑顔になる。
「じゃあ、グリーンを多めに入れて、あとは白かなあ。アクセントに青や水色を入れてもいいかもしれない。」
バックヤードの棚から追加のカタログや雑誌を持ち出してから、お茶を淹れはじめると中村さんが何かを差し出した。コージーコーナーの紙袋だった。
結婚式にふさわしい花束って、どんなもの?/ 娘のトースト 6話
9,149 View中村さんからカミングアウトを受け、結婚式の装花を頼まれた庸子。中村さん、パートナーの田端さんと一緒に、店内で花を選ぶことになった。庸子はそこで、ある質問を投げかける。
「庸子さん、これ。さっき渡しそびれちゃって。つまらないものですが」
「全然つまらなくない、ない! ありがとうございます!」
受け取った袋を開ける。
「あ、それは、ぜひ唯ちゃんに」
中村さんが箱の隅を指差して言う。唯の大好きなチョコマドレーヌもおさえてくれるなんて、さすが中村さん。
私は「そうさせてもらう。ありがとう」とお礼を言った。
「唯ちゃんは、どうですか? 元気ですか?」
「うん。ここ最近、ずっと、ご機嫌よ」
「そうですか」
そう、唯はあれ以来、ずっと機嫌がいい。中間テストの結果も意外と悪くなかったし、部活もますますはりきっている。
たぶん、ありさちゃんとの関係もうまくいってるんだろう。ただの想像だけれど。
「はあ、いろいろあって、すごいですねえ」
雑誌をパラパラめくり、田端さんは驚いたようにため息をついた。たしかに、結婚情報誌の情報量とぶ厚さは並じゃない。
「実際のお花を見てもらった方が早いかな」
私は店の中を歩き回り、ショーケースやバケツの中から、ひょいひょいといくつかの花をつまみ取る。
「たとえば、こんな感じとか。ブートニア」
まとめた花を自分の胸元にかざしてみせると、「あ、いいですねー」と田端さんが笑い、中村さんは感心したように何度もうなずいた。
「束ねるリボンの色でもイメージ変わったりしますよ」と言って花を戻し、私はガサゴソとコージーコーナーの箱をあさる。
「いただいてもいい?」と尋ねると、2人は「どうぞどうぞ」と声を合わせて答えた。
渡す相手のこと
「あと、花束だけど、これは、それぞれブーケみたいに持つの?」
フィナンシェの袋を開けながら尋ねると、中村さんが「いえ、それはお互いの親に渡そうと思ってます」と答えた。
「感謝の花束?」
「ええ、そうです」
やっぱり、ご両親も出席するんだな。無言でうなずき、フィナンシェを一口かじる。
私もいつか、唯から花束を受け取ったりするんだろうか。その時、唯の隣に立つのは、いったいどんな人だろう。
「僕は赤いバラの花束にしようかと思ってるんですけど」
マドレーヌを手に、田端さんが言う。
「大丈夫ですけど…、お母さんに渡すには、結構、情熱的ですね」
私が目を見開くと、「いや、母親がすごいバラ好きで。やっぱり一番喜んでもらえるのがいいかなと思って」と田端さんは照れたように笑った。
「そうか、親の好きな花か…」
中村さんが困ったようにつぶやくと、「知らない?」と田端さんが問いかけた。中村さんは、さらに眉間のしわを深くして首をひねってる。
そんな2人の様子を見ながら、私はエプロンのポケットからメモ帳を取り出し、花の種類を書き込む。田端さん、親、赤バラ、と。
それから、フィナンシェの最後の一口をゆっくり飲み込み、大きく深呼吸をして口を開いた。
「あの」
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