はじめまして、コノビー編集部の三輪です。
コノビーで働きながら週に1度、保育園で保育士をしています。
今回、コノビーで「子どもの行きたくない気持ちに向き合う」特集をすることが決まり、特集担当の浦脇から、「保育者目線の記事を書いてもらえないかな?」と相談を受け、コラムを書かせてもらうことになりました。
朝泣く子がいなかった。日本とカナダで保育士をして私が気づいたこと
100,380 View【特集 子どもの「行きたくない気持ち」と向き合う】
「保育園行きたくない」と泣いている子どもを、無理やりひき離す必要はあるのだろうか?
保育園や学校は、絶対に行かないといけないの?
どんなことが私に書けるだろうと考えていたところ、先日開催した『本当の頑張らない育児』のイベントで、「息子が保育園の登園をイヤがってた時にこのまま小学校もいかなかったらどうしようと悩んだ」とやまもとりえさんが相談した際、すくすく子育てでコメンテーターもしている玉川大学大学教授の大豆生田先生が、こんなことをおっしゃっているのを思い出しました。
「行かなくてもいいと思いませんか?だって学校だけが人生の全てじゃない。学校に行かなくても幸せでいられる社会を、大人側が作っていく必要はある」。
「学校に行かなくても幸せでいられる社会を、大人側が作っていく必要はある」
本当にその通りだなあと思います。
少しずつフリースクールやホームスクーリングという選択も取りやすくなってきたように感じますが、もっと選択しやすくなるといいなと思います。
その一方で、保育園や幼稚園は、子どもの健やかな成長を親御さんと共に見守ったり、日中子どもたちが安心して過ごせる(=親御さんも安心して預けることができる)場としての「子育て支援」という、大切な役割もある。
そう考えた時、子どもたちにとって、園がもっと行きやすい場所になったり、親子分離の不安を少しでも小さくできる方法を考えることも、保育者としてとても大事なのではないかと感じました。
すぐ泣きやみますから、に感じる違和感
「おはよう」と元気よく登園する子どもたちもいれば、そうではない子どもたちもいる。
長期休み明けであるこの時期や、年度はじまりである4月は、特に後者の子どもたちに出会う回数が増えるように思います。
パパとママとバイバイなんて、絶対いや!
久しぶりの保育園でどきどきするの。
昨日、なおちゃんとケンカしちゃったから。
今日はおうちにいたかった気持ちなの。
子どもの姿に寄り添ってみると、行きたくない理由は、実にたくさん。
「そうだよねぇ、そりゃあイヤだよねえ」と思いながら、わたしは彼/彼女らの素直さに感心してしまいます。こんなに素直に自分の気持ちをだせるって、素敵なことだよなあと。
しかしこの素直に感情を表す子どもたちの姿も、「登園しぶり」という見かたに変えてしまうことで、たちまち“気持ちをうまく切り替えられない子”や“わがままな子”に変わってしまうことがあります。
そして保育者が「泣いてても、さっといなくなってください。すぐ泣きやみますから」と、親御さんにアドバイスをしてしまうことがある。その場合、子どもたちのこの気持ちは、どこに置き去りにされてしまうんだろう。
親御さんと離れたあと、けろっと泣きやみ遊びだす子がいるのもたしかなのですが、泣いている子どもたちを、無理やり親御さんと離す必要が本当にあるのだろうか、と私はどうしても疑問に思ってしまうのです。
カナダで保育士をしていた時の話
そんな疑問を解決する糸口を、以前カナダのバンクーバーというところで保育士をしていた時に見つけたことがあります。
カナダで保育士をする日々は、自分のなかの凝り固まっていた子ども観や、自分のなかの“あたり前”という基準をいい意味で壊してくれる出来事の連続だったのですが、「登園風景」もまた、わたしの中のあたり前を崩してくれる一つの出来事でした。
日本とカナダの違い
これはあくまでも私の経験ベースではありますが、日本の園は、下駄箱やクラスルームの前で、親子分離をするところが多いように思います。
その理由は、すでに登園している子どもたちが自分の親を思い出して寂しくなるから、ひとりに許可したらみんなそうしたくなるからとか、一度それを許すと毎日そうしたくなってしまうのではないかなど、きっとそんな理由です。
でも、カナダの保育園は、まさにその“日本では懸念されるであろう状況”で、親子分離をしていました。
園舎の中まで親御さんが一緒に入ってきて、思い思いに園のなかで、時間を共にするのです。
今日は絵本を1冊読んでから、バイバイにしよう。
これ昨日作ったから、ママに見てほしいと思ってたの。
親子分離をする方法やタイミングに、ルールはありませんでした。
日によっては、サークルタイムと呼ばれる日本でいう一斉活動の時間まで一緒にいる方もいて、「仕事は今日おやすみ?」と思うくらいだったし、保育者が保護者に「紅茶いれたから一緒に飲まない?」と誘うことも。
「余白」があるという安心感
そうすると何が起こるか。
子どもたちの泣く声が聞こえないのです。
無理やり引き離されることもないので、「〇〇したくない(行きたくない/離れたくない)」という気持ちではなく、「〇〇したい(一緒に絵本を読みたい/果物食べたい)」という想いを抱き、その気持ちが満たされる朝を過ごす。
子どもたちが素直に出す気持ちに、日本との違いを感じました。
もちろん、泣く子がまったくいないわけではありませんが、玄関ではなく、クラスの中にあるソファに座って、時には果物を食べながら、気持ちを落ち着かせていく。
彼らのなかには、自分(たち)でバイバイするタイミングを決められる「余白」がある、という安心感があったのではないかと思っています。
これは子どもだけでなく、大人もそうでした。
温かな紅茶を飲んでふっと一息つけると、「今日朝から大変でね…」と保育者に話すことができると、子どもにかける言葉がちょこっとだけ優しくなる。そんな姿も何度も見てきました。
安心して生活できる場でありたい
「保育園行きたくない」と泣いている子どもを、無理やり離す必要はあるのだろうか?
親子分離のタイミングだけじゃなくて、たとえば、自分のクラスではなくても、まずは行きたいクラスに登園してもいいとか、部屋の中に家族写真が飾ってあって、気持ちを落ち着かせることができるような工夫がしてあるとか、子どもの行動や気持ちから変えようとする前に、ルールを変えたり、大人が「〇〇すべき」を手放せることがあるかもしれない。
園は子どもたちにとって、暮らしをする場所だと思います。
それはつまり、嬉しい、楽しいという気持ちをたくさん感じる瞬間があるけれど、悲しかったり、悔しかったり、いろんな感情を感じる場でもあるということ。
だから、大人がちょっと憂鬱な気持ちで仕事に行く日があるように、子どもたちにもそんな日があるということを受けとめてあげたいし、そんな子どもとどうにか園までたどり着いた親御さんの気持ちにも寄り添っていきたい。
園が子どもたちにとって安心して生活できる場になるように、親子のみなさんが気持ちよく一日をはじめられる環境を、保育者も一緒に作っていければいいなあと、心から思っています。
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