ママは朝からドタバタバタパタ、大いそがし。
あーちゃんにおっぱいを飲ませて、オムツをかえて、目玉焼きを次から次へ焼いていって……。トマトサラダを白いお皿にどっさり盛りつけたところで、トースターがチーンッ!
体も心も、こんがりきつね色に焼けてしまいそうです。
そんな慌ただしいママのすぐそばで、三歳になったばかりのおてんばエナちゃんも真剣そのもの。
パジャマをぬいで、花柄の赤いワンピースを頭からすっぽり被ります。きれいにお手てを洗ったあとは、大きな声で、「いっただきまーす!」
おいしいご飯をどんどん平らげていって、
「ふうー、しあわせー」
「しあわせー」
パパとエナちゃんが、同時にほうっと頬を緩めました。そんな二人をまじまじと見つめて、ママもにっこり。
「いってらっしゃい」
「いってきまーす」
スーツをビシッと羽織ったパパをお見送りしたあとは、掃除機をブンブンかけて、洗濯機をくるくるぐるぐるうー。まん丸お目めも、ぐるぐる回ってしまいそうです。
ウンギャー、ウンギャー、ギャー!
突然、あーちゃんが大きな声で泣き始めました。
ふらふらの足で駆けつけたママとエナちゃんは、もうへっとへと。ガラガラをふったり、ねこのぬいぐるみを近づけたりして、一生懸命あやしてみても、まったく泣き止みません。
「ねんねしたいのかな」
「そうね。眠いのかもしれないわねえ」
ママはあーちゃんをすっくと抱きあげると、背中をさすって、ルルラララールララー♪
やさしい歌声をききながら、心地よい夢の中にゆっくり入っていきます。
ママは、あーちゃんをそっとベビーベッドの上にのせて、
「ふうー。ちょっくらひとやすみしましょうか」
冷蔵庫の扉をガバッと大きく開けて、かさこそ、がさごそ。
野菜の山をずんずんかきわけて、ぐっと奥まで覗き込みます。けれども、どんなに探してみても、メロンもみかんも見つかりません。果物が全部、すっかり消えてしまっているのです。
「あれー。おかしいわねぇ」
「あーちゃん、ねんねよ」
「そうよ。だから、あーちゃんが寝ている間に、少しばかりくつろごうと思ったのに……。パパが食べちゃったのかしらねぇ」
なおもぶつくさ呟くママの手を、エナちゃんがぐいっと引っ張ります。
「あーちゃん、ねんね、ねんね!シャボン玉するうっ」
お靴をはいて、元気いっぱい外に飛び出していきます。
「まったく、しょうがないわねぇ。じゃあ、お庭で遊びましょうか」
エナちゃんは庭のサクラの木の前に立って、シャボン玉を夢中で吹いていきます。きらきら光る美しい玉はひとつふたつと風にゆれて、空の彼方に笑うように飛んでいきます。
「あー、もうなくなっちゃった」
「また今度、遊びましょう。さあ、家に入りますよ」
「はーい」
空のシャボン玉ボトルをふりながら、エナちゃんは玄関に走っていきます。ママも大葉を数枚つむと、笑顔でもどっていきます。
「お昼はスパゲティーにしましょうね。その前に、あかりちゃんをおんぶしましょう」
そう言いながら、ママがソファの上の抱っこひもを持ちあげると――
「おやまあ!どうして、こんなところに果物がごろごろ転がっているのかしら」
「あーちゃん、あーちゃん。ねんね、ねんね!」
「あーちゃん、ねんね?」
「うん」
「そっか、なあるほどっ」
まあるいメロンの体の上に、りんごの頭がちょこん。細長いバナナの腕に、オレンジ色のみかんの足が二本ずつ。
よくよく見てみれば、バンザイするようにぐーんとまっすぐ手を伸ばして気持ちよさそうにねむる、あーちゃんそっくりです。
おまけに、うふふふふ。固かったメロンは、よく熟れた仲間たちにかこまれて、少し柔らかくなったみたい。
「エナのおかげね。せっかくだから、食後のデザートにしましょうか」
「やったぁ。早く、ご飯食べたぁい」
「ちょっと待っていてね」
ママはあーちゃんをおんぶしながら、さっそくお昼ご飯をつくりはじめました。麺をゆでている間に、フライパンにオリーブオイルを垂らして、玉ねぎときのこ、それからシーチキンを手際よくいためていきます。
おさらにたっぷりもりつけて、最後に細かく切りきざんだ大葉を散らしました。
「わーい、わーい。いただきまーす」
「いただきまーす」
親子三人、仲良く食卓につきました。フォークにくるくるスパゲティーを巻きつけるエナちゃんのとなりで、あーちゃんはとろとろのバナナがゆをスプーンでゆっくりすくいます。
お皿を空っぽにしたあとは、メロンとりんごをわけあって、もぐもぐ、ぱくぱく、ごちそうさま!
おなかいっぱい、とってもしあわせです。
ライター:ナフナン