親を困らせ、親に泣かれ、親に叱られた俺が「親」になった。散々「親不孝者」と言われたこの俺が。
まもなく息子が生まれるという時、俺は不安でいっぱいになった。
俺、何するの?
父親って何ができるの?
おむつ替え?
ミルクをあげるとか?
え?それだけ?
そんなことを考えていた時「家事メン」が増えているというニュースを見た。
これからは男も家事をする時代。
よし、とりあえず家事だ。
家事親父だ!俺はそう意気込んだ。
モノで息子を釣るパパ。買わなかった日、息子から笑顔で言われた一言<第三回投稿コンテスト NO.57>
132,126 View息子が喜ぶなら、と高いおもちゃでも買い与えていたという、パパイヤさん。だけど、何も買わず遊んだ日に、息子から言われた一言に衝撃を受け…。パパから届いたエモエピソードです。
しかし息子が生まれてから3年。
ワケあって、現状ゴミ出ししかさせてもらえない。
なぜかって?
俺が手を出せば「味が濃い」「シンクが汚い」「洗濯物の干し方が雑」と妻が怒るのだ。
家事親父となっても妻を炎上させるばかり。
カレー作りに2時間かかり、最後は鍋を焦がす始末。
買い物だってキャベツとレタスを間違えたり、チラシにはない高い方のタマゴを買うこともしょっちゅう。
そんな俺にこの春、妻からついに戦力外通告。
「もう何もしないで!」
こうして就任したゴミ担当。
出勤前、妻がかけよってきて「はい、あなた」とひと言。
弁当かと思えばゴミ袋!
カレンダーの赤丸は、俺の誕生日じゃなくて燃えるゴミ。
俺ってゴミ以下?
なんならせめて資源ゴミにしてくれ。
ある時息子に聞いてみた。
「パパとママ、どっちが好き?」
「ママ!!」
さすがに悔しかった俺。でも何回聞いたって答えは同じ。
たまらず息子の前で妻をディスってみた。
「なあ、本当はママって鬼なんだぞ」
そこまでして好感度を上げたい俺に息子は言い放つ。
「パパ、わるぐちはダメ」
うわぁー。俺、最低の親父じゃん。
完全にママの勝ち。悔しいのやら切ないのやら。
だけど考えてみれば当然じゃないか。
俺が息子と関われるのは土日だけ。
これで妻に勝とうなんて、もう9回裏から逆転をねらうようなもの。
いくら頑張ったって無理だよなあ。
でもなあ。
しゃくだよな。
俺だって息子に好かれたい。
こうして一発形勢逆転をねらうべく、俺はポイント稼ぎに出る。
その週末、俺はここぞとばかりに息子と近所のショッピングモールに行った。
手始めに300円のガチャガチャで遊び、その次は屋上のミニ遊園地へ。
散々乗り物に乗ったあと、おかし売場を物色。
「買って買って〜」
視線の先にはキャラメル。
もちろんダメとは言わなかった。
だって100円だぜ?
ケチケチするなって。
最後は「鬼門」のおもちゃ売場へ。
昔はよく駄々をこねて、ラジコンをねだったものだ。
あの時うちの親父は本当に俺を置いて帰った。
あとでお袋が血相を変えて探しに来たのは今も忘れない。
怖かったな、親父。
そんなことを懐かしんでいると息子が「パパ」とかけよってきた。
手には戦隊物の変身セット。
何やら暗闇で光り、カードを本体にセットすると豪快な音を発するという。
しかし値札を見れば7,200円。
ゼロの数、多くない?
イイネをつける前にかなり「いい値」である。
「ほしいの?」
(コクンと頷く)
「買ってあげようか」
(超笑顔)
結局、誕生日でもクリスマスでもないのに買ってしまった。
本当にダメな親である。
だけど会計時ふと妻の顔がよぎった。
絶対怒られるよな。
だってこの前もガムを一枚あげただけで「なんですぐあげるの!しつけがなってない」って言ってたもんな。
「ちゃんと躾をして!」
「はい。します」
毎回こうやって場を収めるものの、これじゃ「しつけスルスル詐欺」だよな。
ああまた怒られる。
帰宅後、案の定怒られた。
キャラメルや変身セットを見るなり「あまーい!」と一喝された。
こうして翌週から財布を持つことも車を使うことも禁止に。
「はい!これで遊びにいってきて」
持たされたのはおやつと水筒。
これでどこに遊びにいけるというのだ。
でも仕方ない。
とりあえず息子と家を出た。
歩けど歩けど公園もない。
家ならオモチャもあるし、ゆっくりできる。
帰ろうかなあ。
うーん、だけど家には妻がいるしなあ。
また怒られそうだし。
すすむ。
とまる。
もどる。
身体も心もそんな感じだった。
そんな俺をよそに息子はおやつが食べたいと言い出した。
コンビニのベンチで佇むと「見て見て〜」と息子。
なんとチップスターを2枚口に挟んでアヒルのマネ。
「お、おお」
俺は苦笑い。
だって今朝妻に「食べもので遊ぶな」って言われたばっかりなのに。
子どもって懲りないなあ。
だが横断歩道で、俺はまたしても奇怪な行動を目にすることになる。
信号は青。
右、左、右でさあ渡ろうという時だった。息子は橋でも渡るかのように慎重に白線だけを歩き出した。
「ほら!早く歩かなきゃ」
「ダメ!落ちたらワニが来る!」
え?ワニ?
俺は一瞬目が点になった。
だけどここは車の通過点。
モタモタしている場合じゃない。
「いいから、渡るぞ」
しかし手を引いた途端、息子は「ヤダヤダ」と寝転んだ。
これにはさすがに参った。
一度決めたらテコでも動かない。
信号はいよいよ点滅し始めた。
結局、クラクションを鳴らすドライバーと、手を引く俺がワンチームになって、息子の引き上げにトライ。
無事、事なきを得たのであるが、いやはや魔の3歳児。
先が思いやられるばかりである。
そのあとも息子のあとを追うこと3時間。
足は棒、頭はボーッの帰り道。
目的もなく、目標もなく、ひたすら息子を追った。
ゴールもなく、コースもなく、ただただ小さな背中を追いかけた。
そんな自分をふり返って思った。
俺、何もしてない。
くたくたになった身体を湯が包み、ヘトヘトになった心をビールが癒やした。
その晩、布団に入ると息子はこう言った。
「パパとあそんでたのしかった〜」
その瞬間、俺は身体に電流が走るほどの喜びを感じた。
俺、今日、何もしてないぜ。
俺、今日、何も買ってないぜ。
でも子どもってこんなに喜んでくれるんだな。
ああ、そうか。
親って何かしなくても、ただそこにいて、それだけでいいってこともあるんだな。
息子の笑顔にそう教えられた。
(ライター:パパイヤ)
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