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公開 2020年04月22日  

外出自粛をどう乗り切るか。用意したおうち遊びは、ことごとく無駄になったけど、それでも幸せな日々。

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毎日はっきり詰んでるけど、きっとみんなもそうだよね、って思いながら暮らしてます。


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順調に新学期が始まった、と思ったのはほんの数日だった。


覚悟は決めていたけれど、やはり3人そろって休校、休園ともなると、なかなかの破壊力がある。


不要不急のおでかけが大好きな、子どもたちとの軟禁生活なのだから、春休みや夏休みとは訳が違う。難易度がずいぶんと高い。


お天気がいい日はまだいい。お散歩をしたり、お庭でやり過ごしたりすることもできるけれど、問題は雨の日。

朝起きて、空がどんより薄暗いと、それだけで「詰んだ」と感じてしまう。



今日がまさにそれだった。

朝、窓の外を見て「まじか」と思った。空が今にも泣きだしそうに、暗い顔をしていた。


とりあえず、長女の大量の宿題を、毎日こつこつこなすべく、いったん座学。

5歳と3歳にも、ぬりえや迷路やまちがいさがしをあてがって、平和な時間を期待する。

我ながら周到だなぁ、と感心していたのは、ほんとに序盤の序盤だけで、後半は3方向から、わからないやら、できないやら、クーピーがないやら呼ばれ続けて、ほとんど、もぐらたたきのような状態だった。白目を剥いていた。

この座学タイムに乗じて、お仕事しようとパソコンを開いたのが、滑稽に思えたほど。


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宿題、テレビ、おひるごはんを経た昼過ぎ、退屈を持て余す子どもたちに、「新聞紙でなにかつくろう」と声をかけたら大歓喜してくれた。

そうそう、その調子、お外はすっかり雨だし、おうちで楽しく遊ぼうじゃないの、とほっこりしたのも、やっぱり序盤の序盤だけだった。

エネルギーがありあまっているらしい5歳男子が、誰よりも早く作品名「かたな」をつくり上げ、だれかれかまわず叩きまわった。

柱を叩き、長女を叩き、末っ子を叩いて、走り回る。私に叱られることさえ楽しいらしく、歓声を上げて刀を振り回し、なにかしらをものすごい勢いでずっと叩いていた。破裂音がずっと響き渡っていた。

そのうち、5歳と3歳の戯れが騒がしいやら危ないやらの、追いかけっこに発展した。

新聞紙でスカートを作っていた長女が、まるで戦火の中で一心不乱にミシンを踏む人(なにそれ)、みたいな雰囲気をかもしてなんだか妙に切なくなって、下のふたりを隔離する。



5歳と3歳をいったん2階に回収して、YouTubeのダンス動画を再生する。

軽快な音楽が流れて、かわいらしいお姉さんの明るいかけ声が聞こえると、ふたりともたいそう喜んだ。

私がステップを踏み始めると、ふたりも合わせてきゃあきゃあと、はしゃぎながら、ぎこちないステップを踏む。


そうそう、これこれ。私も運動不足の解消になるし、エネルギーの塊、幼児たちも発散できるし最高、と思ったのもやっぱり序盤の序盤だけだった。

それは10分間のダンスをもとにしたフィットネス動画で、画面の右上にはカウンターが大きく表示されていた。確かあれは3分半が過ぎた頃。

ふたりともテンションがあがり過ぎて、部屋の隅の古いローテーブルの上に乗って踊り出した。

ああ、危ない、と止めようとする思考の切れ間に、画面にばばんと表示される「からだがあったまってきたね!」の文字。太字。

そんな気がする、ここからが本番だね、と、つい気持ちがお姉さんに向いてしまって油断した。

すっかり気分が高まった息子が、ローテーブルを足がかりに、カーテンレールに飛びついた。意味がわからない。なにをやってるのか。
そこからはまるで、スローモーションを見ているようだった。

カーテンレールが窓枠からすこんと外れて、弓なりになった息子の身体が宙を舞い、同じくローテーブルの上にいた末っ子をアタックした。

重量21kgが、勢いよく12kgの華奢なからだに、メガヒットの瞬間だった。

床に敷いてあった絨毯に突き刺さるように、テーブルから落ちる末っ子3歳。なにもう泣きたい。



慌てて末っ子を抱き起こして、顔をくまなくチェックすると、鼻の下と口の中が少し出血していた。

カーテンレールにぶら下がっちゃダメって、あんなに言ったでしょ、と息子に言いながら、よそのお宅でこんな台詞言うことってあるのかしら、と気が遠くなる。

そう、息子にはカーテンレールにぶら下がった前科がある。

36年間生きてきて、カーテンレールにぶら下がったこともなければ、ぶら下がりたいと思ったこともない身からすると、発想自体がもうほとんど宇宙だよ。

日本中探したって、私くらい読みが甘くて、空回りしまくってるおかあさんって、ほかにいるんだろうか。

いなくてもいるって言ってほしいし、みんなそうだよって抱きあいたい。


ああ、もう、と末っ子の背中をさすりながら途方に暮れて、ぐったりしていたら、長女が完成品の「スカート」を履いて現れた。

きちんとギャザーが寄せられていて、ふんわりとしたシルエットが、新聞紙で作ったということを忘れるくらい、とってもかわいらしい。

本人も満足したらしく、ほくほくの笑顔に、たった今の惨事なんてころりと忘れてつい、こちらまでにこにこしてしまう。



つくづく自分の段取りの下手さに、うんざりしてしまうけれど、単純だから、こんな瞬間だけで勝手に報われる。

新聞紙のスカートを履いた長女に、スマホのカメラを向けると、小首を傾げてほほ笑んでくれる。思わず「ああ、かわいい」と声が漏れる。

さっきまでしょぼくれていた息子と、泣いていた末っ子が、笑いながら割り込んでくる。

それをレンズ越しに見ながら、また「ふふ、かわいい」と声が漏れた。

なんだ私、単純だな。


家の外に目を向けてたら、笑えない状況ばかりだけれど、こうして半径1mの子どもたちに翻弄されていたら、不安にかられる暇もない。

私は元来、極度の不安がりだから、こんなしっちゃかめっちゃかな毎日が、丁度いいのかもしれない。怪我されるのは困るけど。


白目を剥いたり、途方に暮れたり、怒ったり、笑ったり、家の中だけで、私は今、じゅうぶん忙しい。


※ この記事は2024年10月29日に再公開された記事です。

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