昨春、我が家には2歳半になる娘がいた。
2歳の夏と言えばトイトレ。
トイトレと言えば2歳の夏。
子どもが2歳前後になると、どこからかそんな情報がまことしやかに囁かれ始める。
そうなんですよねぇ……。
分かっているんですけれども、どうも重い腰。
お洗濯の味方、8月に、実行!?
とはいえ、夏といえば夏休み。
夏休みは、年長の兄も在宅となり、家事の他にも子どもの遊び相手、そしてケンカの仲裁やらも増える。
いっちょ、梅雨を前にトイトレ先取りしちゃおうかな!
育児2人目の余裕を見せた私は、「短期決戦!梅雨前にトイトレ完了計画」を打ち立てたのであった。
梅雨入り前の決心
この子、結構いけるんじゃない…?
ちなみに兄である息子のオムツが取れたのは2歳8ヶ月。
計画開始当時、娘は2歳6ヶ月。
そんな娘が兄より早くトイトレ完了出来ちゃうのでは!?と私が目論んだのには、いくつか理由がある。
オムツ替えの際に、はたと気付く、オシッコ量の多さ。
朝起きた時にオムツが濡れていない日が増えた、などである。
これは、成長とともに膀胱の容量が増えてきている……?
そして極めつけに、娘は「とにかく、喋る」のである。
兄の同じ頃と比べてもその違いは明らかで、もう一日中ペチャクチャ、とにかくずっと喋っている。
お人形遊びでは「たいへんーたすけてー」「こっちよーにげてー」と、しっかりしたキャラ&ストーリー設定。
抱っこしてほしい時でさえ、この娘はストレートには言わない。
「ね、おかあしゃん。むすめちゃん、だっこしようかね」
これは「決して私の要望ではないんだけれども、なんかそういう雰囲気だから、抱っこしましょうかね」という、彼女なりの高度な誘導術なのである。
こんなハイレベル・コミュニケーションを操る娘だったら、意思疎通もスムーズで、トイトレも難なく進むはず。
この時の私は、そう思ったのだ。
いざ、トイトレ開始!
ところが実際始めて見ると、あら不思議、さっぱりうまくいかない。
トイレに行くこと自体はそんなに嫌がらないのだが、トイレでの成功はゼロ。
リビングに帰ってきたその直後、ジャー。
そのエンドレスリピートだった。
足をコネコネさせたりして、その感覚は分かっているはずなのに、どうもうまくいかないのだ。
「娘ちゃん、オシッコはどこでするの?」と聞くと、しれっと「トイレだよ」と答える。
その表情は、愚問ですけど?といった風情すら漂っているというのに。
「いや、じゃあその足元の水たまりは何ですの」
「知らにゃい」
「知らない、ってことないでしょ」
「だって、わからにゃいから」
母と、舌足らずの娘の、舌戦が続く。
失敗しても、怒っちゃいけない―頭では分かっているはずなのに、さすがにこうも繰り返されると親だって疲弊するってものだ。
そんなわけで梅雨前にに完了しちゃうかも、なんていう私の思惑はまんまと外れ、ついに梅雨がやってきてしまった。
雨降って、地固まる。
うん。
そう自分に言い聞かせ、トイトレは致し方なく一時中断。
セオリー通り、洗濯の味方である夏を待つことにした。
その日は突然やって来た
時は過ぎ、8月。
娘は2歳10ヶ月。
トイトレを再開したのだが、状況は梅雨前と変わらず。
弛まぬ前進を続けるのは、娘の相変わらずの、おしゃべり。
あーもう、どうしたらいいのか。
ネットなどでよく見るシール作戦も、トイレを楽しい空間にしましょう、も思いつくことは全部やったのに……!
この頃の私は少々、出口の見えないトンネルの中でさまよっていた。
ところが、半年に及ぶこのトイトレは突然、終わりを迎えることとなった。
3歳を1週間後に控えたある秋の日。
いつもの遊び部屋にて。
突然、自ら遊びの手を止め、「むすめちゃん、トイレいくから」という娘。
え!?
促されるまま、流されるまま、ふたりでトイレに行くと、娘は初めてトイレでのオシッコに成功したのであった。
「これで3さいの、おねえちゃんになれるね!」
そう言って、ニコリと笑う。
私は娘のこの「トイレ行くから」宣言から、ずっと鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして一部始終を見届けた。
なんで?急に?突然どうした?
何がキッカケで!?
「すごい!すごいよ!むすめちゃん!!」
まだまだぷっくりという言葉が相応しい娘の顔を両手で包み込むと、彼女は満足そうに笑い、「おねえちゃんパンツはくの」と誇らしげに言った。
「焦り」は目を曇らせる
子どもの成長って、こちらが思っている以上に色とりどりだ。
お喋りが上手で、ブランコが上手に漕げたって、トイトレが難なく進んで行くとは限らない。
2歳がトイトレの目安とは言っても、2歳は365日ある。
今になって思い返せば、娘は初めてのトイレに成功して以降、なんと1度もお漏らしをすることなく、夜のオムツも一気に卒業した。
もしかすると彼女は、自分にとって完璧な形でオムツが卒業できる時を、その頃合いを見計っていたのかもしれない。
だとしたら、心から申し訳なく思う。
なぜなら、トイトレが進まず停滞していた「2歳の夏」に、私は娘を叱ってしまうことも多々あったから。
「2歳の夏なんだからトイトレしなきゃ」
そういった世間一般でよく言われる基準や、兄のオムツ卒業時期にばかり気を取られて、肝心の「娘自身」をきちんとみてあげられていなかった。
娘を叱ってしまった気持ちの正体は、私自身の「意地」と「焦り」だったのでは?
始めたからには完了して終わらせたい、という意地。
兄よりお喋りだからうまくいくはずなのに、という焦り。
「トイトレします!必ず終わらせます!」と世間に申告するわけじゃないのだ。
上手くいかないのなら、「今じゃなかったのかあ~」と前向きに一旦中断するのも大いにアリ。
「今じゃなかった」ことが分かっただけで、それは立派な収穫と言える。
トイトレが原因で、自分自身と愛する我が子がハッピーじゃなかったら、元も子もない。
終わってみると分かるんだけど。
過ぎてしまえばそんな時もあったな、と笑えるのだけれど。
育児ってそういうことばっかりだな、と。
さて、今春、幼稚園に入園した娘はトイレットペーパの調節も自分で出来るようになり、私を伴わずともトイレを完結できるようになった。
頼もしい、の一言である。
「そうなの!むすめちゃん、パンツおねえちゃんだから!」
パンツおねえちゃん……。
おねえちゃんパンツだね、それは。
ところどころ、たどたどしさの残る娘のおしゃべり。
ゆっくり堪能しながら、これからも成長する娘に寄り添っていきたい。
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