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公開 2021年05月12日   更新 2022年05月12日

子どもに対する返事の無限ループ。ずっと喋ってる気さえする。

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子を産んでからというもの、親ってこんなにお返事をするのだな、と驚いています。

喉を酷使するお仕事をなさっている方って、ほんとうにすごい。


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子どもが産まれたからというもの、とにかくずっと返事をしてる。


もうずっと。

長女が生まれた9年前、赤ん坊が、ふええと言えば、はいはいと乳を出す暮らしが始まった。

泣けば飲ませ、泣けば寝かせ、泣けば抱っこをする。

いっそ、子の声に応えることが、母業と言ってもいいのかもしれない。


今、我が家には3人の子どもがいる。

つまり、私は3人の声を日々聞いて、応えているというわけ。

しかも3人とも、もうはっきり発語をするお兄さんお姉さんなわけだから、こちらも言語でお答えしなければならない。

喉と耳が、いつだってフル稼働している日々。



これは、5月のなんでもないある日のこと。

夕飯の席で長女が「今日ね、学校でね」と、お話をした。


「うんうん」

「なっちゃんとね、お外に行こうって言ってたんだけど、えっと」

「ママ!このお肉ってなんかつける?!」


長男である。

おっとりした長女のお話は、とてもゆっくりしており、「えっと」のひと呼吸もまったりしている。

そのまったりしたひと呼吸の隙間に、話を聞いていなかった長男が元気にカットイン。


「ちょっと待ってね」と、長男をいったんお待たせして、もう一度長女のターン。


「うん、それで?」

「えっとね、なんだっけ、あ、そうそう、なっちゃんとね、お外に行こうってお話してたんだけど、あ、みっちゃんも一緒にいたの、それでね、えっと」

「ママぁ。ぎうにう飲みたいなぁ」

今度は、末っ子がカットイン。

長女に相槌を打って、ねぇねぇ、としつこい末っ子に「牛乳はもう少しごはんを食べてからね」と、お返事をしながら、そうでした長男「ねぇ、このお肉ってさぁ」、「まずはお口で確かめてみてね。お味がついてるから。足りなかったらまた言ってね」と鎮める。


さて、もう一度長女に向き直る。

「ごめんごめん、なんだっけ」

「ううん。えっとね、なんだっけ、あ、なっちゃんとね、お外に、あ、みっちゃんもなんだけど」

「ママ!!!やっぱりお肉なんかつけたい!!!」


なっちゃんもみっちゃんも、お外に行ったのか行かなかったのか、一向にお話が進まない。


やっぱり牛乳が飲みたい末っ子が、またなにかを言って、お肉に味ををつけたい長男が、なにかを言っている。

長女の細い声が、かき消されて聞こえない。


「なっちゃんとみっちゃんのくだりは聞いたから、続きからでいいよ」とお伝えして、さあ、長女、いざ。


「えっとね、なっちゃんとみっちゃんと……、あーんやっぱりここからしゃべっちゃうなー、なんでだろうね。うふふ。」

や、もういいから、話を先へ。ねぇ。


「今日、僕も外行ったよ!!!!誰と行ったでしょうか!!!!!!」

声が大きいね、長男。


「じゃあ、お水飲みたいなぁ。お水だったらいいでしょ?」

分かった、分かった。今取ってくる。


ほんの5分程度の間に、こうして三人三様お好きなことを話す。

交通整理をしながら、右を止めながら左を促し、左がすこし通過したら一旦左を止めて、後方を振り返る、という感じ。

私は常に返事をしている。



「今日ね、先生がね、」末っ子。

「雨で今週はぜんぜんサッカーできなかった。来週は晴れるの?」長男。

「なっちゃんがね、ほんとうはみっちゃんとさ、」長女。


みんなのお話を等しく「うんうん」と、やさしいお顔で聞いてあげたいんだけれど、そんな夕食の時間を過ごしたいんだけれど、お代わりを給仕したり、お水を用意したり、ひじにご飯粒ついてるよ、と言ったり、ちゃんとお箸を使いなさいと言ったり、緑のお野菜も食べてね、と言ったり、お母さんはとても、とても忙しい。

終始声を発しているんだけれど、なにを聞いてなにを答えたのか、わからなくなるのが常だ。

ちゃんとお返事をしているつもりなんだけど、そうじゃない、ちゃんと聞いて、ぜんぜん聞いてない、と子どもたちから怒られるのも常。

そして、ごはんを食べたはずなのに、みんなの食器を下げながらなぜか満たされないお腹に首をひねる。

お返事に忙しくて、何をどれだけ食べたのか判然としない。



この日は、末っ子だけが夕食前、お風呂に入りそびれていた。


ほらお風呂に入りなさいな、とお風呂へ促して、こっそりバナナを貪ったんだけれど、半分ほど一気に口へ詰め込んだあたりで、また呼ばれるのがお母さん。

はあい、とバナナでぎゅうぎゅうになったお口で頑張ってお返事をしているのに、お風呂場の声はどんどん大きくなる。

仕方なく右手に残った半分のバナナを、その辺のコップに挿して、お風呂場へ。


ざっと末っ子を洗って、自分も洗う。

その間も、何かしらを常に喋っているのがお母さん。

幼稚園でのお話をうんうんと聞いて、シャンプーしたくないだの、身体を洗うのはそっちの石鹸がいいのだのに、そうね、うんうん、とお返事をしているそばからバーンとドアを開けて、「ママ―!!!長女がスライム貸してくれない!!!」長男だった。

はいはいもうすぐ出るから、待っててね、とお返事をする。声帯はやっぱり忙しい。



お風呂を出たら、慌ただしく3人分の寝支度を整える。

お薬飲んだ?歯磨きした?なんでズボン履いてないの?暑い?あ、そう。の後ろでやっぱり誰かしらが、「もっとサッカーうまくなりたいなー!どうやったら強く蹴れるの?」とか、「図書室で借りた本がね、すっごくおもしろくってね」とか、「お手紙書きたいんだけど―。かわいい紙がないんだけどー」とか、言ったりしているわけ。


練習あるのみだよ、とか、こんど持って帰って見せてね、お手紙はまた明日にしようね、とか、声帯を使うだけ使って、最後の砦がやってくる。


お布団 DE 絵本。



末っ子は、まだまだかわいい4歳だから、例えこんなに慌ただしい日々でも、例え毎日は無理でも、絵本を読んであげたい日もある。

この日は早々に、絵本を読む約束をしてしまっていたので、休み前でもあったし潔く読むことにしたんだった。


1冊読む間にも、各々、「これ知ってる!」、「これなあに」、「さっきのページのあれさぁ」、おんおん、うんうん、ちょっと待って、あとにしてね、とお返事をしてお返事をして、絵本を読んで読んで、どうにか約束の2冊目も読んで、ようやくみんな就寝した。


使い切った喉がとても渇いている。

満たされそびれた小腹も空いている。

でもとても眠い。

ああ、そろそろ両家の実家へ、母の日のプレゼントを手配しなくちゃ、大変大変、とスマホを取り出して、眠気を振り払いながら、洒落たマヌカハニーの詰め合わせを注文した。

眠たい頭で、なんか喉によさそうだな、と思った。


喉が渇いた、なにか飲みたい、なにか飲みたい、と思いながら気がついたら朝になっていて、朝起きたら、昨日コップに挿したままのバナナが朽ちていた。


世の、お母さんたち、みんな喉の調子はどうなんだろう。

私はいつでも、喉が疲れるな、と思っている。

年々、声が太くなっているような気もする。


※ この記事は2024年11月10日に再公開された記事です。

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