長男が小学生になってから、朝の戦争ぶりに拍車がかかっている。
もう、お手上げと言っていい。
数か月前、彼がまだ幼稚園児だったころ、長女ひとりの送り出しは、そこまで負担に感じなかった。
親子そろって、朝がうんと弱いので、その点で言えば明らかに大変ではあったんだけれど、長女ひとりの朝食を用意して、長女ひとりを送り出すのは慌ただしくも今思えばだけど、それなりに穏やかな時間だった。
小学校まで歩いて40分ほど。なので彼らは7時半を待たずに出発する。
長女ひとりが小学生だったあの頃、そろそろ長女が家を出ますよという段になって、長男と末っ子が起きてくるという流れだった。
ところが、長男が小学生になって、6時40分に、長女と長男ふたりが揃って起床する。
声の大きな長男が起きるということ、それすなわち、末っ子も起きざるを得ないという事実。
つまり朝、6時40分から三つ巴なわけ。
お母さんは、暖機運転もままならないまま、エンジンを全力でふかさないといけない。
低血圧なのでとてもつらい。
長男が小学生になって2か月。
すっかり早起きに慣れた末っ子は毎日元気に私を起こす。
ここのところ、夜明けが早いので、とってもすっきり目が覚めるらしい。
「マーマー!!起きて!!!!」と起こされて、瞼がピリピリするのを受け止めながら半目を開けると「もっとちゃんと開けて!!」と、怒られる。理不尽。
片目ずつ、エネルギーをぶるぶる戦慄かせながら、どうにか開眼するのだけど、眠い、とても眠い。
今から早速の三つ巴が待っていると思うと、なおさらに眠い。お布団が愛しい。
どうにか目を開けて、三人引き連れて一階に降りたら、ごはんの支度をしながら、それぞれに声をかける。
「お着替えしてよー。今日は体育あるのー?検温カードまだの人は出してねー。」
いちいち言わなくても、いいのかもしれないけれど、せっかちな上に、長年の育児生活でマルチタスクが板につきすぎてしまった。
両手がふさがっていても、お口は空いてる!とつい何かしらを口走って、先へ先へとコマを進めようとしてしまう。
因みに、余談を挟むと、このご時世仕方のないこととは分かっているけれど、検温カード、検温カードが多い。
我が家の場合、まさかの6枚ある。
小学校×2枚、学童×2枚、習い事×1枚、幼稚園×1枚、の合計6枚。
長女は自分で書いてくれるとはいえ、頭の中には6枚の検温カードがずらりと並んでいるし、書いたかどうか確認するのは私である。
そして、朝っていうのは、各々ご機嫌にムラがあったりもする。
みんなご機嫌で、毎朝最高のパフォーマンスで、スタートできたらいいのだけど、人間だものそうはいかない。
例えば、朝が弱い長女は、鉛のようにしか動けない日がある。
階段を降りるのも一苦労だし、朝食を食べながら、空虚に窓の外を見ていたりする。
長女は小さいころから寝つきが悪く、いまだに夜興奮して寝付けない日が時々ある。
「まだ寝たくないんだもーん」と、布団の中でルンルンしている姿はとてもかわいらしいのだけど、翌朝は決まって鉛になるので、とても困る。
しょうがないよね、と思いつつ、「ほら食べな」、「手が止まってるよ」と、声をかけては目を離すと、また目を開けながら眠っている。
それと同時に長男のお支度の進行に目を配って、末っ子の要求を飲みつつ、長女をまた見たら、手もお口も止まっている。
「朝からイライラすまい」と、いつだって心に掲げているんだけど、どうにも修行が足りない。
朝食を終えて、もたもたハンカチやマスクを用意する頃には、こちらも気が急いてくる。つまりイライラしてしまう。
さらには、長男が不機嫌パターン。
彼は、不満を全身から爆発させるタイプ。
朝、機嫌が悪いと、それはもう面倒。
ちょうど今日も、不機嫌な朝だった。
珍しく、私が先に起きて階下にいたことも不満だったし、些細なことで長女といさかいになったことも、引き金だった。
なにをするにも不貞腐れて、支度が遅々として進まないし、仕方がないので着ていくはずの体操服を出してあげたら、なんてこと、それを蹴っ飛ばした。
心に掲げた「朝からイライラすまい」を、ぎゅっと握って、華麗にスルー。
卵を焼きながら「ほら、お着替えしちゃいなよ」、「お熱も測ってね」、と声をかけたり、放置したりなんだりしていたんだけど、むくれっつらが治らない。
迫る時間と、のんびり屋の長女と、マイペースにタブレットをひらこうとする末っ子。
ああ、頭の中がむずむずする。
そして、浴びせられる長男からの「お熱はかってるし!」という怒声。
心に掲げてあった「イライラすまい」がバリンと砕け散る。なんなのもう。
とにかく小学生組ふたりを、穏便に健やかに送り出すのが、至難の業過ぎる。
私たちが暮らす地区の子どもたちは、安全面ではとってもありがたい集団登校なのだけど、集合時間というのが当然ある。
うちの子だけが遅刻する分には、構わないのだけれど、お友達を待たせてしまうのはやはり申し訳ないし、お仕事前に交差点で子どもたちを渡してくれる、旗当番のお父さんお母さんもいらっしゃる。
予定が狂うと、大変な人もあるだろう。
時間通りに家を出すということが、こんなにも難しいなんて、子どもたちが小学生にあがるまで知らなかった。
いつだって「いってらっしゃーい!」と、さわやかに送り出せるお母さんでありたいと、思ってはいるんだけど、ちっとも全然簡単じゃない。
テレビで観るみたいな、家族で朝食を囲んで「いっけね遅刻だ」、「あらあら」、「行ってきまーす!」ちゅんちゅん、みたいな光景ってほんとうにこの世に存在しているんだろうか。
こちら、寝間着のトップスにガードルしか履いてないお母さんが、居酒屋の元気なお兄さんみたいにせわしく動きながら、高らかに発声しているのが常なのだけど。
もう少し母として、研鑽を積んだら、あのテレビで観るみたいな、朝の世界線にたどり着けるんだろうか。
それとも、今生では無理なのかしら。
爽やかな朝の送り出しのための、ひみつ道具があったら、うっかり大枚落としそうなくらいには悩んでいるこの頃。