三姉妹の末っ子だった妹が、ある日突然、単身カンボジアへ発ったのは彼女が21歳のときのこと。
当時、親元を離れて働いていた私はさほど驚きもしなかったけれど、母はそれなりに動揺したらしい。
妹は生来、聡明で意志が強いところもあったので、大学生ともなればいろんなことに興味を持って飛び込んでいくのは自然なことだとしか思わなかった。
カンボジアでは現地の子どもと触れ合ったり、ボランティア活動に励んでいたそうだ。
大学生活のそんなひとコマを私は微笑ましく思っていた。
末っ子はいつまでも赤ちゃん…。そんな私に「NO!」と言った、娘の小さな反抗
13,389 View5歳の健やかな成長に目を向けていこうと思う次第です。
それから数年後のこと、私は妹のあの旅立ちの根底にあった思いを知ることになる。
長女を妊娠中、どこへともなく妹とドライブをしていた時だった。
「お母さんはずっと私のことを子ども扱いする」
親にとっては子どもはいくつになっても子どもだって言うし、そういう側面もあるよね、となんとなく相槌を打っていたら
「それだけが理由じゃないけどカンボジアに行ったのは『それ』もある」
思ったより根が深そうな発言に驚いた。
妹の話によると、末っ子なせいか、いつまでたっても赤ちゃん扱いをされているところがあって、それがどうにも腑に落ちなかった、ということらしい。
甘えん坊の私からすると、ずっと甘やかされている妹がめちゃめちゃに羨ましかったので驚いた。
妹は自分の足できちんと立って、母に大人であると証明したかったのだ。
妹は母の過保護な側面に窮屈さを感じていたんだろう。
確かにそれはそれで嫌気がさすところもあるかもしれない。
妹の話を聞きながら「同じ家にいても胸の中っていうのは知らないこともあるものだな」と思った。
さて、我が家にも子どもが3人いて、当然妹と同じ「末っ子」がいる。
長女の悩みは姉から何度も聞いていた。
真ん中っこの気持ちは私が痛いほどわかっている。
最高幸せハッピーだと思っていた末っ子の知られざる胸の内もインプットできたし、できることしかできないけれど、それでも各々窮屈な思いを少しでもしないようにと気をつけるつもりでいた。
なのに、末っ子からなかなか赤ちゃんの皮を脱がせることができないのだ。
どうしよう。
名実ともに赤ちゃんだった頃はもちろん家族一丸となって赤ちゃんとして扱って、こねくり回してかわいがっていた。
みんなで抱っこして、みんなで離乳食を食べさせた。
泣けば誰かが抱いていた。
幼稚園に入っても一番小さい2歳児クラスさんにいたときはやっぱりまだまだ赤ちゃん。
歩き方だってどこかおぼつかない。
依然、赤ちゃん砦の中だった。
「せんせい」と言おうとしたって「ちぇんちぇい」としか言えないし
この世で一番こわいのは「3匹のこぶた」に出てくるおおかみだった。
ぜんぜん、赤ちゃん。
年少さんにあがってもまだ少し赤ちゃん。
「ちぇんちぇい」とは言わなくなったけれど「しぇんしぇい」になっただけなので。
帰りの会の途中でお歌を歌いながら寝てしまうこともしょっちゅうだった。
なんてかわいいのか。
年中さんはいよいよ赤ちゃんが消えつつあるのを感じた。
絵を描いても顔から手が出たりしないし、その横に「まま」と文字も書かれていた。
それはそれでとっても愛しいけれど、これは、赤ちゃん砦からもう出てしまったのか、と眩しい成長の陰にさみしさが拭えなかった。
「お寿司」と言おうとすると「おすき」になるという点にしがみついて、赤ちゃんの残り香を執拗に吸っていた。
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