末っ子の妊娠がわかってしばらくした頃、さて私はどこでこの子を産むんだろうと思った。
長女は実家がある某県の病院で産んだ。
いわゆる里帰り出産というやつ。
その2年後、長男を産んだときも地元へ帰った。
のだけど、2歳の長女のお世話と新生児のお世話はとても大変で、ではやはり実家に帰っていて大正解だったんではと思われそうなんだけど、老いた母のキャパシティは想像以上に小さくなっていて、もうほとんどパニックと言ってよかった。
半ば訳がわからなくなった母は、私と子供たちをまとめて夫の実家に送致することに決めたのだった。
今思い返してもあれはいったいなんだったんだろう、と思うほどの混沌だった。
母も私も里帰り出産が当然のような気がしていて、深く考えることもなく、地元の病院を予約してしまったんだけれど、もっと冷静に考えた方が良かったのかもしれない、と思う出来事だった。
産後の義実家滞在が大正解だったワケ。冷静さと、まるで”母”のような姪っ子の存在。
167,286 Viewそこそこなんとなかると思った3人目の産後も、やっぱり訳が分からなかったです。
そんなこともあって、3人目のときは「さてどうしよう」と考えた。
前回の件で、母にこれ以上負担を強いるわけにはいかないのは分かっていた。
前回は長女を連れてのお産だったけれど、今回は長女と長男を連れてのお産になる。
じっとしていない上に目が離せない2歳の息子を実家に放ったら、母がパニックになることは目に見えていた。
油性マジックで脚に落書きをしたり、コップの水に唐揚げを突っ込んだり、椅子から延々飛び降りたりする様を見るたび悲鳴をあげたに違いない。
また、長女が幼稚園に通っていたこともあったので、あまり環境を変えない方がいいような気がした。
自宅のそばの産院で産んで、産後も自宅でゆるく過ごすのがいいだろう、というのが大まかな考えだった。
ところが、夫の母が「そんな」と声をかけてくれた。
「産後はこちらに来て過ごせばいいじゃない。幼稚園にも送ってあげるから」
夫の実家は自宅から1時間と少し。
まあまあの距離だけれど、幼稚園まで毎日送迎をしてくれると言う。
「いえいえ、そんな。申し訳ないです」
一度はお断りしたんだけれど「産後に無理をするのはよくないから」と何度も言われるうちに「それでは」とお願いすることにした。
義母は母よりはるかにエネルギッシュで、はつらつとしているので幾分安心でもあった。
とはいえ、4歳と2歳と言ったら手がかかる盛りだ。
前回のことが何度も頭をよぎってしまった。
幼児の破壊力はすさまじい。
毎日子どもたちと暮らしていれば日々がグラデーションで壮絶になっていくので麻痺してしまうけれど、言葉がきちんと通じて、液体をこぼさなくて、割れ物を割らなくて、家の中にダンゴムシを持ち込んだりしない成人と暮らしている人にとっては、毎秒が予想外で疲れるに違いないのだ。
家の中に一日中ゲリラ豪雨がやってくるようなものだ。
ゆっくり過ごせばひとりでやれるんじゃないだろうか。
あちらのご家族に迷惑をかけていいのだろうか、と何度も悩んだ。
しかし、結論は出ないままお産の日はやってきてしまった。
念のため、産前と産後の間だけ長男を保育園へ入れる手続きをしておいたのだけれど。
本陣痛を迎えて15分という驚くべき安産で末っ子は産まれた。
産まれる1時間前、私は元気に病院の美味しいメンチカツ定食をきっちり完食していて、エネルギー満タンの出産だった。
メンチカツのおかげでいいお産になったと思っている。
体力の消耗が少なかったせいか、非常に元気で退屈な入院生活だった。
やっぱりこのまま、ひとりでなんとかなるんじゃないかと何度も思った。
が、義実家宅に身を寄せて3日目。
長女がまた高熱を出した。
「また」と言うのは、彼女は長男の産後も高熱を出したのだ。
そのとき娘は40度の高熱が丸2日続いて、そしてそれが私にも移って咳が止まらなくなり散々な産後だった。
そして今回も長女がまた高熱を出して、慌てて夜間応急へ駆け込んだ。
検査の結果はインフルエンザA型。
「ああ、これは……」と思った。
病院の駐車場から診察室まで長女はずっと私に抱かれていて、私は産後で免疫系がおそらく底辺で、これはこれはこれは、前回の轍を踏んでいく。
予想ではなく確信だった。
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