幼少期のわたしにとって「眠れない」は一大事。怖いものはいくらでもあって、涙が溢れたあの日のタイトル画像
公開 2022年09月28日  

幼少期のわたしにとって「眠れない」は一大事。怖いものはいくらでもあって、涙が溢れたあの日(2ページ目)

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さっさと大人になっちゃって一緒に楽しい夜を過ごしたいね、と思う日でした。



すっかり夜が平気になって久しいけれど、あの頃の果てのない悲しい気持ちは今も覚えている。

どこにも救いがないような、奈落の底にいるようななんとも絶望的な気持ちだった。

耳の穴に涙が流れてくる感触も、びしょびしょに濡れたこめかみもはっきりと思い出せる。


子どもが生まれてからというもの、あれだけは経験させたくないとずっと思っていた。

もう勘弁、と思いながらもいまだに添い寝をしているのはそのせいだし、子たちが寝付くまで寝室にいるようにしているのもそのためだ。

なんだかわからないうちに朝になって、不安な夜なんて知らずに大きくなってほしい。

そう思っていたはずだったのに、油断した。


その日は、妙に3人とも寝つきが悪くてなんだかいつまでも誰かがごそごそ動いていた。

声はせずとも気配がある。

辛抱強く身を固くして彼らが寝るのを待って、待って、いよいよ寝たと思ったんだけどなんとなくやっぱり気配がする。

いやでもさすがにもう寝ただろうと、念のため3人の寝顔を確認した後、1階へ降りることにした。

1階へ降りて、最近はまっている語学学習アプリを楽しくこなしていたらなんだか物音がする。

飼い猫が2階の廊下で誰かが落としていったおもちゃでも転がしているんだろうとしばらく放っておいたのだけど、なんだかいつもと様子が違う。

時計を見ると22時10分頃。

まさかと思って階段をのふもとから上を見上げると、長女が気まずそうに立っていた。


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「どうしたの?」

両手を広げると、階段を駆け下りた長女が吸い込まれるように腕の中に納まった。

「寝れなかった?」

頷いた長女は堰を切ったように泣き出して、ぎゅうと私にしがみつく。

普段おとなしい長女が赤ちゃんみたいにわあわあ泣いていて、急に小さく見えた。

寝ようと思うのに寝られなくて、弟や妹がすっかり寝ていて、どんどん不安になったらしい。

「そんな日もあるよ、明日の朝は車で送っていってあげるから夜更かししよう」

夫も呼んでテレビをつけて、最近家族で気に入っている動画をいくつか一緒に見た。

3人でケラケラ笑っているうちに元気を取り戻した長女は、そのあと布団に入るとすぐに大きな寝息を立てていた。


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そういえば長女と夜更かしをしていて思い出した。

いつかの夜、「寝れない」と両親の寝室を訪れたことが何度かあった。

カップラーメンを食べさせてもらって、そのまま父と母の間で寝た。

そうだそうだ、忘れていたけどそんな夜が確かにあった。

どうやら泣き濡れて不安に押しつぶされた夜だけではなかったらしい。


どうして親に関するいろいろは、自分にとって都合のいい部分こそ抜け落ちてしまうんだろう。

そんなのお互いにとってちっとも平和ではないような気がするんだけど。

でもそうやって、「親なんて」と思いながら自立して、そのうち外の世界に大事な人を見つけるのかもしれない。

いつか長女にとって、あの夜布団で泣きながら過ごした時間が鮮明に残ってしまうんだろうか。

もしそれが健全なプログラムのせいだったとしても、やっぱり悲しことはきれいさっぱり忘れてほしい。

悲しい思いを何ひとつしないまま大人になれないなんてことは分かっているけれど、私はうんとわがままなお母さんなので、子どもたちにはただ楽しく生きて暮らしてほしいのだ。

大きな不安とか落胆とかそんなこと知らないままでいてほしい。

夜更かしして観たあの陽気で能天気な動画が、あの不安な夜をすべて上書きしてくれますように、と思っている。


※ この記事は2024年09月25日に再公開された記事です。

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