子育てや保育・教育でも、この「とめはね」のようなもの、言わば「正解のようなもの」が亡霊のごとくつきまとう。
おむつは布で、粉ミルクより母乳で、離乳食は手作りで、朝・昼・晩栄養のとれるものを、野菜も食べられて、お片付けができて、ゲームではなく本が好きで、電車では静かにして、店内では走り回らずに……。
すべてが正しいわけではないのは知っているし、そんなに完璧にはできないし、やらなくていいのはわかっている。
けれどわかっていても、ほかの家庭や子どもや、自分が生きてきて膨れ上がった理想と比べては引け目を感じてしまう。
どこかで、正しい子育てを目指して打ちのめされている。
抜け出したくなるけれど、容赦なく日常は続く。
だから、そんなときに思い出してみてはどうだろうかと思ったのだ。
「読めたらええねん」を。
子育ての「読めたらええねん」、はなんだろう。
「1日笑顔で過ごせた」かな。
いや、「今日も生きた」だけで十分なんじゃないか。
最低限の及第点なんかじゃない。
それで満点花マルなのだ。
そんな悠長なことは言ってられないよ、子どもの将来を考えるのも親や保育者の仕事だろう、と言われるかもしれない。
無責任にかわいがるだけなら苦労しない。
その通りだと思う。
ただ、子どもも大人もしんどくないように、大切なことを見失わないように、順番を整理したいということ。
歩けるようになった、言葉を発するようになった、それだけで感動していたのにいつからか「できないこと」に目を向けている。
ほかの子はできているのに、昨日までできていたのに、そんな想いに駆られて「なんでできないの」と怒っては、怒ってしまった自分をあとで責めてしまう。
けれど、大丈夫。
「今日も生きた」と思ってみよう。
誰かの力を借りてもいい、手を抜いてもいい、愛せなくてもいい。
「泣いたりケガしたりしたけれど、今日も生きた」その積み重ねだけで毎日花マルだ。
そうやって日々を過ごす中で少し余裕ができたら「笑顔で過ごせた」、で追加点だ。
そのときそのときに余裕ができた分だけ「より生きやすくなれば」と思っていろんなことに目を向けていけたらいい。
「より生きやすく」が増えすぎて息苦しくなったら、埋もれてしまった「読めたらええねん」を思い出す。
そうやって繰り返していけたらいいなと思う。
文字や言葉は読むためだけにあるのではない。
伝えるためにある。
「こうでなければダメ」と教えられると、間違わないように間違わないようにと、プレッシャーを感じながら取り組むことになる。
するとそのうち、伝えることよりもうまく書くことに力を注いでしまう。
中身のない文章になってしまう。
人の文章を読むときにも、内容ではなく文法の不自然さに目がいってしまう。
本当に大切なことは、なにを伝えたいかを書くことであり、なにを伝えようとしているのかを読みとろうとすることだ。
「今日も生きた」に立ち返ることができたら、こんな風に育ってほしいと焦る気持ちを少し横に置いて、その子にどんな風に生きていてほしいか、そんなことを想像してみたい。
僕は物書きではないから、この文章も、ヘタくそだと思われないか不安になりながら書いている。
けれど、そんなときこそ「読めたらええねん」と信じてみる。
そうして肩肘張らずに書いたものを面白いと思ってもらえたなら、少し心に余裕ができて「もう少し伝わるように」と句読点の打ち方を調べてみるかもしれない。
決して手を抜くわけではない。
開き直ることも自己満足にもしたくない。
けれど「こんなんじゃダメだ」と思ってしまいそうになったときに、「読めたらええねん」と自分に言い聞かせて足を止めずに進んでいけたらと思う。
余談ですが
先日、86歳の祖母に会いに行ったときに、開業する孫のためにご祝儀を用意したいと相談された。
祝儀袋に「開業祝い」という文字を代わりに書いてあげて、その下に書く名前は「ばあちゃんが自分で書きや」と促した。
震える手で「バアバより」と書いた。
いや、書けていなかった。
「ババアより」になっていた。
「ああー間違えちゃった。ババアより……やって、おっかし」と笑っていた。
「おもろいやん、伝わればいいんやから」と僕は返した。
きっと中身は使っても、その封筒は捨てずに取っておくと思うよ。
そんなことを思った。
間違えた「ババア」の文字に笑いあえる、そんな瞬間を思い浮かべると、ちょっと心が軽くなります。
「正しさ」は大事だけれど、もっと大事なこともある。
余裕がなくなった時、思い出したいですね。
本作には他にも、育児中の親に寄り添ってくれるようなエピソードがたくさん掲載されています。
ぜひ手にとってみてくださいね。
(編集:コノビー編集部 岡田)
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