自分で衣類の着脱のできるようになった子どもって、本当に着たいように服を着るので、時折というよりはしばしば
「あのう…それはいったいどうして…」
という服装になることがある。というより大体そうなる。
うちの末っ子の次女はついこの12月に5歳になったところ。
今はとにかくひらひらとした、キラキラとした、お姫様のように可愛らしいお洋服がそれは大好きで、そういうコーディネートのことを『ゆめかわのお洋服』と言う 。
なんだろう、夢のように可愛いということか、そしてどこで覚えたんだろうかそんな言葉。
「そんなのお母さん言ってた?」
と、最近自分の言ったこともよく覚えていないもので本人に聞いてみたら、ソースはこの子の6つ年上の姉である長女だった。
思えばこの長女もまた、5歳の頃にどうしてもピンクのお洋服しか着たくないのと言ってきかない時期があった。
それである日、手持ちのピンクの服を全部汚してしまって仕方なく汚れたピンクのワンピースを着たままの長女を自転車に乗せてファストファッションのお店に走ったこともある。
次女の幼稚園は制服があるので平日の朝の身支度にはそれほど大変な思いをしないのだけれど、いざ幼稚園から帰って来る、もしくは幼稚園のない土日になるともう大変で、一応冬の寒さを考えて母親である私が、暖かいアンダーシャツに、洗濯の簡単な綿のトレーナー、それから動きやすさを重視してレギンスパンツとか、デニムでもウエストゴムのもの、よくある子どもの普段着をひと揃え並べるのだけれど、3回のうち2回は却下されてしまう。
「やだ、だってこれぜんぜんかわいくない」
正直ものすごく面倒くさい。
「衣類の選択と着脱は子ども本人にやらせましょう。子どもの自主性を育て、自立を促します」と昔々何かの本で読んだことがあるような気がするけれど、そしてそれを読んだのは多分まだ長男が赤ちゃんか生まれていない頃で、自分で着替えをできるようになった幼児の手ごわさを全く知る由もなかったのだ。
今、うちにいる5歳児の奔放なほど自由な自主性にお洋服のコーディネートをお任せすると大体は「エッ…」ってことになる。
服装は自由だ、表現も自由だ、いやだがしかし。
上がショッキングピンクのコットンニットで下がベビーピンクのシフォンのティアードスカートとか、冠婚葬祭の為にクローゼットに控えている白襟に紺サージのお嬢さま風ワンピースとか(これはものすごくお高い)、プリンセスドレスとか、そういうものを着て
「さー!自転車乗りにいこっか!」
今次女が大ハマりしている補助輪つきの自転車に乗りに公園に行こうぜなんて言われることを想定していたのでしょうか、あれを書いたひとよ 。
それでも『最高におしゃれなあたしで自転車に乗りに公園に行く』というミッションについてはまだ、百歩譲ってよしとしよう。
どのみち季節は冬、次女がどんな格好をしようとお外に出る時はぶ厚いダウンコートにその「最高におしゃれなあたし」を包み隠してしまうので、そこまで汚れもしなければ、破けもしないし、真冬の公園は人も少ない。
時々通りすがりのおばあちゃまに次女のショッキングピンクのダウンコートの裾からこぼれるプリンセスドレスのサテン生地のスカートを二度見されることはあるものの
(えへへ、そういうお年頃でして…)
私が曖昧に微笑えむと
(ああ…好きなものしか着ない時期ってあるわよねえ)
という無言の会話が成立したかは不明であるものの、大体は笑顔を返して頂ける。
お年寄りは小さな子どもの自由奔放な服装には結構寛容だし、そもそも今は人が何を着ていようが裸じゃないならそれは自由じゃありませんかという時代だし、その辺は私もそう思う。
お高い洋服を汚損しないでいただけるのであれば。
あと極端な薄着で結果的に寒空の下でぶるぶる震えだすとかそういうことがないのであれば。
しかし、次女好みの服装をすべて許してしまうと困る場所がある、病院だ。
次女にはちょっとした持病があるもので、毎月1回は必ず定期的に病院に通っている。
その時には必ず血液検査、それからレントゲン、あとは時々エコーなど、とにかくちょこちょこと検査をする必要があるのだけれど、その時に着脱の面倒な服装をしていると話がややこしくなるというか、いえあの、本当に大変なんですよ。
特にレントゲン。
あなたも一度くらい経験はないですか、健康診断などで『上半身のレントゲンを撮ります』とあらかじめ言われていたのにうっかり当日ワンピースとかサロペットみたいなものを着て医療機関を受診し、上半身の衣類を脱いでいただきたいんですけれどと言われてそこにあったバスタオルをお借りする羽目になったことが、ないですか、私は結構やってます。
とにかくそのように、病院に行くとレントゲンを撮らないといけない次女は、いざレントゲン室に番号で呼ばれて
「上半身のお洋服だけ脱いで、ここに立ってくれるかな、金属のものをつけていませんね?」
とレントゲン技師さんの言ったその時に一番お気に入りのピンクのプリンセスドレスなんてものを着ていると、ドレスというものは基本的にワンピースタイプだし、シフォン、サテン、キラキラのラインストーン、そういうものでてきているので脱がせにくいったらありゃしない。
大学病院のレントゲン室なんて、あとからあとから患者さんが流れて来て、スタッフの人は生き馬の目を抜いていると言うかとにかく忙しそうなのだから、こちらとしても早く用事をすませて退出しなくてはと思うのに、全然うまくコトが運ばない。
しかもレントゲン室の扉を開けた瞬間にドレスを着たプリンセスが仁王立ちしているのだから出オチもいいところ。
同じことは診察室の扉を開けた瞬間にも起きてこの前も担当の先生に笑われた。
「どうしたんや、この後パーティーか?」
ええもうホンマに毎日がパーティーなんですのよ、先生。
これを凌駕する子がうちにはいる、長男だ。
でも彼は次女とは違って、本当に小さな頃から服装に拘りというものが無い。
13歳になった今もそれはあまり変わらなくて、私は自分がそうだったのだから中学生くらいになると服装に少しくらい拘りというものがでてくるのじゃないかなあと思っていたのだけれど、それは完全に個人差の世界であるらしい。
むしろ、彼は服を全然着ないのだ。
別にエブリディ全裸とかそういうことではなくて(彼の名誉のためにも違います)、長男の通う中学校には制服があるのだけれど、朝それを着たら最後、夜寝るまで制服でいるし、寝る時には流石に他の何かに着替えるけれど、体操服での登校を学校が許可してからというもの寝る時に体操服を着てそのまま登校して、それはどうなのと私が言うと
「合理的やろ」
と得々としている。
お母さんはね、お母さんは、君に似合うと思ってちょっとお値段が張ったけど、アウトドアブランドのパーカーとかフリースとか、かっこいいデニムとかそういうのをこの冬何枚か買って箪笥に入れたのよ、なんて言っても
「いやべつにええのに」
だったらお母さんが着たらとか言う、もう泣きたい。
そもそもお母さんと長男ではもうサイズが全然ちがうやないの。
あんたに似合うと思ったのに、ちょっとくらいお洒落したらいいのにと言って泣きまねをしても、長男は服装なんか本当にどうでもいいらしい、曰く
「そんなことに頭を使っているのが面倒」
ということなのでもう、生粋だと思う。
そして傍らには暖かさ第一で選んで買ってきたフリースやトレーナーや裏に起毛のあるデニムには目もくれず真冬にはちょっと生地が薄いやろと突っ込み必須のプリンセスドレスで、過分にお洒落を楽しむ次女。
服のことひとつとってもきょうだいはそれぞれだ。
何より親と子どもは別個体なのだなあと思えるのが面白…くはないけれど興味深いと言えばそうなのかも。
しかし洋服の買いにくいことと言ったらない、服に一切興味のない長男、小さな頃の好みの続きで今もスカート専門の長女、ゆめかわお洋服の大好きな次女、だれひとり私の好きなタイプの服装を好む子がいない。
お母さんは年中黒か紺かシマシマなのに。
子どもは自分ではないのだなあ。みんな裸じゃないならいいですよもう、風邪だけはひかないでね。