ある日、娘の保育園の登園バッグから着替えなどを出していた時のこと。
バッグの奥底にカサ、という手触りがあり、ぬり絵でも持ち帰ったのかな……と取り出してみると、小さく折りたたまれた紙が出てきました。
そして、そこには驚くような言葉が書かれていたのです。
「ラブレター」
子どもの字で書かれたその字が、ちょっと大人びた言葉となかなか重ならず、私は何度か見直してしまいました。
娘は5歳の年中クラス。
お手紙をもらうことは園内でもよくあるものの、まだまだラブレターなんて言葉とは無縁だと思っていました。
慌てた私は、リビングでのんびりくつろいでいる娘に聞いてみました。
「これ、もらったの?」
娘は私の手元のラブレターにちらっと目線をやり、あまり表情を変えずに答えました。
「うん」
「同じクラスの子から?」
「うん、〇〇くん」
名前が出たのは私もよく見かける男の子。
ただ、娘の口からその子の名前はあまり出てこず、親御さんともそれほど交流が無かったので、そんなに親しくはないのかな?くらいにしか思っていなかった子でした。
そして、勢いで聞いたものの、どうリアクションしたらいいかを何も考えていなかった私は「そ、そっか…」と間抜けな返事をしただけで、その場は何も聞き出せずに終わってしまいました。
「年中でラブレターなんて書く!?」
夫に、ラブレターについて話した時の第一声がこれでした。
娘が可愛くて仕方ない夫は、明らかに不機嫌な様子。
息子が5歳のときは、全くラブレターを書くそぶりも見せなかったので、余計にそう思ったのかもしれません。
「中、見た?」と夫に聞かれ、娘に見ていいかどうかをまだ聞いてないことを伝えたところ、「ラブレターと書いてはあるものの、ただのお手紙かもしれないし、見てみよう」「この年なら親も把握しておいた方がいいって」と主張する夫。
うしろめたさを感じつつもコッソリ開いてみると、そこには大きく「だいすき」という言葉と、ハートマークがたくさん書いてありました。
「うーん、ラブレターだった……ね……」
「うん……」
本気度合いは掴みかねるものの、これはラブレターだな!という感じの中身。
より、いっそうリアクションに困る現状でした。
「娘ちゃん、返事書くのかな」
「書くとしたらなんて書くのかな」
気持ち的にすっかり振り回された私たちは、直接娘に聞いてみることに。
「娘ちゃん、〇〇くんにお手紙でお返事書くの?」
すると、娘は特に表情も変えず、一言だけ返してきました。
「書かないよ」
あまりにクールな娘の返事。
「お返事書かないの?どうして?」
(ラブレターの存在に憤慨していたのに)夫が少し慌てた様子で尋ねました。
「……」
すると娘はもうこちらを向くことなく、無言のまま。
普段から、答えたくないことは黙ってしまう娘。
少し大人びている娘の気持ちは、5歳にして早くもよくわかりません。
色々聞いてみたけれど、もう何も手紙について話してはくれませんでした。
結局、娘がお返事を書くところを見ることなく、半月ほどが過ぎました。
お手紙をくれた男の子のママさんとは、園内で挨拶くらいはするものの、特別親しいわけでもないので会釈して終わり、という感じです。
「〇〇くんが、もしお返事を待っていたらどうしよう……!」
つい手紙を出す方の気持ちにも肩入れしてしまい、私は1人でソワソワしていました。
そもそも、娘は普段からお手紙の返事を書かないタイプ。
お手紙に返事が無いと悲しませてしまうのではと、書くことを促しますが「書きたくない」と断固拒否する娘。理由は答えてくれません。
何故書きたくないのかの理由もよくわからないし、また、娘が返事をしないことでクラス内で浮いてしまうのではということも、以前から気になっていました。
そこで、先生に少し経緯をお話してみることにしました。
すると先生から衝撃の一言が飛び出しました。
「ラブレター、最近流行ってるみたいですね」
よくよく話を聞いてみると、どうやら今、年中クラスの中で色んな子同士が「ラブレター」のやり取りをしているとのこと。
キッカケは先生も、よく分からないとのことでした。
みんなの成長の速さに驚きつつも、「娘が全然お返事書かないんですけど、大丈夫そうですかね?」と質問したところ、
「お返事書かない子もいますし、お手紙を好きな子同士でやり取りしてることがほとんどなので、あまり気にされなくて大丈夫かと思いますよ~」
と、明るい返事が返ってきました。
娘の心の内は不明ですが、とりあえずひと安心。
夫も「ただの流行りか~」とあからさまにホッとしていました(笑)
その後、娘のお誕生日会。
「一番仲の良い子は?」の質問に、なんと娘はラブレターをくれた「〇〇くん」と回答。
みんなの前で握手をしたそうです。
お返事は書かなかったけど、嬉しかったのかな……とほのぼのした気持ちになった母でした。
あまり口数が多くなく、大人びている娘には、色々と振り回される日々。
親が全力で関われるうちは、家族の中の小さな騒ぎも楽しんでいけたらと思っています。