「介護殺人」は、介護する方もされる方も60代・70代・80歳代が多く、一見すると、私たちのような育児世代には遠い話のように思えます。
ところがこれ、人ごとではないのです。
この記事は毎日新聞の調査で、2010~14年の5年間に起きた44件の「介護殺人」について、その背景や動機を調べたものです。介護殺人を犯した人の何割かには、「連続する介護で、満足に睡眠が取れていなかった」という調査結果が出ています。中には、うつ症状がみられたケースもあるようです。
介護に限らず、「育児」もまた、自分以外の「生きている人」の要求に、24時間365日、時間に関係なく応え続けるという意味では、同じだといえるでしょう。
つまり考えようによっては、介護殺人と子ども虐待殺人の背景は同じなのではないか、と私は思うのです。これは、子どもを育てている私たちにとっても人ごとではありませんよね。
人間には(というより生き物には)感情があり、自分の欲求を叶えたいと強く思っています。お腹がすいた、排泄したい、どこかが痛い・かゆい、眠りたい、不安だ、悲しい…。人間の欲求というのは、生理的欲求から安心安全の欲求、さらには承認欲求と際限なく続いていくものです。そしてそれは、介護や育児されている側のご老人や赤ちゃんはもちろん、介護、育児する側にも同じことがいえます。
介護・育児の担当者は、食事や排泄などは自分の意思でスキマ時間などにすることも可能ですが、「睡眠時間」はそう簡単には確保できないものです。眠い、と思ったその時にすぐに眠ることができ、一瞬で深い眠りに落ちることができれば良いのかもしれませんが、人間そううまくはいきませんよね。
疲れた身体を横たえて、脳を鎮め、とろりとろり…とやっとまどろみはじめたところに、ご老人や赤ちゃんからの「要求」が来たら?大抵の人は、眠ることができず目が覚めてしまいます。
こうして眠れない時間が重なっていくこと、寝ようとした瞬間に起こされること。睡眠が確保できないと、身体の疲労とともに「心の疲労」も溜まっていきます。
かつて、囚人を拷問する方法の中に、上から一定時間に1滴ずつ冷たい水を落として囚人を眠らせないようにする、というものがあったそうです。これは、眠りを妨げることが人にとっていかに辛いことか、ということをあらわしている話だと思うのです。
人によって、体力や精神力を維持するのに必要な最低限の睡眠時間は違います。けれども、どんな人も絶対に眠らなければならない。そして、眠れる環境を用意し確保することは、とても大切なことなのです。
では、どうやって眠れる環境を確保すればよいのでしょう?
自分自身で環境を整えられる人はいいのですが、おそらく今の日本で、そんなことができる育児世代のお母さん、またはお父さんはあまりいないのではないでしょうか。
弱い者の声に応えてあげられるのは自分しかいない、という使命感。そしてその人を放って自分の欲求を優先すれば、何かあった時に自分が周囲から責められる、という見えない重圧に縛られている人がほとんどだと思います。
周囲の人間は、そんな身体も心もいっぱいいっぱいの人を見て、何かしてあげたいと思っているはず。日本人がそんな時によく使う言葉は「大丈夫?」です。大丈夫?と問われた日本人は、往々にして「大丈夫!」と答えます。でもね、充分な睡眠がとれずに身体も心も疲労していますから、それは全然大丈夫ではないのですよ。
身近に、育児や介護などでいっぱいいっぱいになっている人がいたら、ぜひこう問いかけてあげてください。
「昨日、何時間寝た?」
この質問に答えようと、その人が自分の睡眠時間を考え始めることが大切です。彼女または彼がいかに眠っていないか?どれだけ大変な責務を背負っているのか?を、一緒に考えてあげてください。そしてまずは、仮に1日だとしても充分な睡眠を取ってもらうこと、そこから協力をしてあげてください。
本人の疲労がピークに達する前に、少し立ち止まって考える。そんな方向に持っていけるように問いかけることが、必要とされているように思います。
増え続ける痛ましい事件や事故。介護もそうですが、日々の育児に忙殺されがちな私たちにも、同じようにリスクは潜んでいます。まずは「良質な睡眠をとること」を考えましょう。
周りから気にかけられることではじめて、自分がいかに疲れているかに気づくこともあります。
今日にでも、一緒に子育てしているパートナーに問いかけてみてくださいね。