日本では特に、いろんな理由で病院によっては家族の付き添いのできない小児病棟も多いのが現状です。
しかし子どもにとっては家族と共に過ごすことは守られるべき権利であり、子どもの回復にご家族の付き添いは絶大なパワーを発揮すると私は思っています。
私が勤務している病院は、きょうだいの面会ができないという課題はありますが、幸い、ご両親が付き添いのできる入院病床です。
そのため、子どものベッドサイドにはご家族が一緒にいることが多いのですが、ときどき、付き添いのお母さんが買い物や食事に出たり、一時的にご自宅に戻っていて子どもが独りきりのことがあります。
ある朝の病棟回診でのできごと。
5歳のMちゃんにはお母さんが付き添っていることが多いのですが、その日はお部屋にお母さんがいなくて、Mちゃんだけがちょこんとベッドに座っていました。
お買い物にでも行ってるのかなと、私は特に気にかけることなく
「Mちゃんおはよう、調子はどうですか」と声をかけ、診察を始めようとしました。
しかしその時Mちゃんは私に向かってこう言ったのです。
子どもに「あなたが大切」と伝えたつもりだったのに…【きょうの診察室】
11,957 View子どもを真ん中にして診察することを心がけていたけれど、その心づもりが、子ども自身には違って映っていたことがわかって、はっとした瞬間がありました。
今回は、「伝えること」と「伝わること」は違うんだよと私に教えてくれた、ある女の子の話です。
きょうの診察室:「おかあさんいないよ」
「おかあさん、いまいないよ」
私はとても驚きました。
いつも、診察のときにはまず子どもに声をかけるように、心がけています。
それによって、子どもが主役になって、病気と戦ったり付き合ったりする環境を応援しているつもりでした。
けれどもMちゃんにとっては、ベッドサイドでのお母さんと私の会話や様子が、「先生はいつもお母さんと話をしにきていて、自分は二の次」、という印象をあたえていたのかもしれません。
「先生はいつも、Mちゃんに会いに来ているんだよ。Mちゃんが元気になるためのことを、お母さんとお話ししているんだ、伝わっていなかったらごめん。」
するとMちゃんはじーっと私を見てから、「せんせい、ここにすわってもいいよ」と言ってくれたのです。
その後も、回診の時には「せんせいについていく」と、近寄ってくるようになりました。
「伝える」ことと、「伝わる」ことは違う
「私があなたをみているよ、あなたに逢いにきているよ、あなたを気にかけているよ」というメッセージ。
私は診察のはじまりと終わりを、子どもに話しかけ子どもの言葉を引き出すことで、「伝えている」つもりでした。
しかし子どもに「伝える」ことと、実際子どもに「伝わる」ことは全然違う。
Mちゃんに、本当は伝わってないよ、と教えられたような気持ちになりました。
きっと病院以外でも、あるいは大人同士でも、同じようなことが起きているかもしれませんね。
行動でもことばでも、相手に伝わるようにこまめに発信していくこと、さらにそれがちゃんと「伝わって」いるかどうか、伝えたその人自身と確認することが大切なんだと、改めて感じた朝でした。
子どもたちはまっすぐに、私に足りないことを、教えてくれます。
子どもの声に耳を傾け、向き合うことで、大人同士の社会もより良くなるヒントがたくさん得られるのではないかなと、日々感じています。
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