あいうえお表でひらがなが読めても、絵本が読めない理由
50,423 View読書する子どもに育てたいと思い、ひらがな46文字を教えたとします。でも、本当の意味では本を読めるようにはならないのです。
「本が読める」ってどういうこと?
例えば、次の英語の歌を歌ったり絵本を読むにはどうしたらよいでしょうか。
To the place, I belong
West Virginia, mountain mama
Take me home, country roads
これを子どもに読ませようとしてアルファベット26文字を教えても、この文章を読むことはできません。英語で書かれた本を読む時、アルファベット一文字一文字を知っていても、「icecream」「apple」など言葉として単語が頭に入っていなければ声に出すことさえできませんね。
では、日本語の絵本の場合はどうでしょう。
む・か・し・む・か・し・あ・る・と・こ・ろ・に・お・じ・い・さ・ん・と・お・ばあ・さ・ん・が・す・ん・で・い・ま・し・た。あ・る・ひ・お・じ・い・さ・ん・が・や・ま・で・し・ば・か・り・を・し・て・い・る・と・・・
ひらがな46文字を覚えていればこの文章を読むことができます。
でも、読むといっても“音を拾って声に出しているだけ”。「なんて書いてあった?」と聞くと答えられなかったりします。たどたどしく声に出していても、意味内容までわからないので「ママ読んで」となることもあります。この状態を“拾い読み”といいます。読めてはいるけれど、文章の内容理解にまで至っていない状態です。
ひらがなは、文字と音とがl文字1音、1対1で対応しているため、どんなに難しい内容のものでも、ひらがなで書かれてさえいれば、とりあえず音を拾って声に出すことは出来ます。でも、ただそれだけなんです。
本が読めると言うのは、日本語でも英語でも意味のある言葉として文章を読むことなんですね。
「言葉」として教えよう
では、どうすれば“拾い読み”をしなくなるのでしょうか。
そのためにはひらがなを教えるとき、“あ・い・う・え・お・か... ... ”とバラバラに教えるのではなく「あひる」「あめ」といった言葉として教えることがポイントです。それによって、文章を見たとき、「あ・ひ・る」と一文字一文字バラバラで目に飛び込んではこないので、「あひる」と読むことが出来ます。
つまり、英語の「orang」「apple」のように、ひらがなも「みかん」「りんご」と言葉で教えていけばいいのです。
でも、ひらがなって形が似ていて読み分けしにくいですよね。「おじいさん」「おばあさん」「おにいさん」「おねえさん」どれもこれも形が似ていて判別が難しいです。
また、ひらがなでは意味がはっきりわからないことがあります。例えば、桃太郎の昔話にでてくる「おじいさんは、やまへしばかりにいきました」という文章。”しば“というと”芝生(しばふ)“をイメージしてしまう子どももいるかもしれませんが、正しくは”柴刈り“の”柴“です。また、”あめ“と言われても”飴“なのか”雨“なのかパッと意味がわからないこともあります。
漢字ってわかりやすい
さて、次の4種類の文字、どれが子どもにとってやさしくてどれが難しいでしょうか。
「あ」・「中」・「虫」・「蟻」
2歳の文字を全く読めない子どもたちを集めて実験すると、一人の例外もなく、「蟻」の漢字を先に覚えます。
よく考えてみればわかりますよね。
「ひらがな」は表音文字、つまり一字一字音を表すだけで意味そのものを表していない単なる記号。「あ」と見せられても色もなければ形もない、何か具体的に頭に浮かぶものではありません。だから、覚えにくいのです。
これに対して漢字は表意文字、意味のある文字です。「蟻」と見ると、子どもは頭の中に実物のあの黒くて小さい「蟻」を想像し簡単に覚えてしまいます。
同じ漢字でも「中」はどうでしょう。画数は少ないので小学1年生で習いますが「コップの中」「部屋の中」と掴みどころがありません。小学校1年生で習う「上」「下」「左」「右」などの抽象的な概念を表す漢字は覚えにくいのです。
「虫」は「中」よりはイメージが湧きますが、「虫」という名前の虫は存在しません。「蝉」とか「蜘蛛」とか「蝶」とそれぞれ名前が付いています。だから「虫」の文字を見ても「蟻」のようにパッとイメージできないのです。
だから、子どもが「蟻」の漢字を先に覚えるのは自然のことなのです。
書くことと読むこと
書くことと読むことをごっちゃにしてしまうと「漢字は難しい」となってしまうかもしれません。たしかに漢字は書くのは難しいかもしれませんが、読むという面から見ると複雑な方が特徴があってわかりやすかったりします。
人の顔に大きなほくろがあるとか、髪の毛が金髪であるとか複雑な顔の人は印象深くなり、覚えやすいですよね。
これと同じで具体的な意味もあり、それぞれの特徴がある漢字の方が印象深く残ります。
私たち大人でも、“薔薇、鬱、麻雀、挨拶、葡萄、推薦図書” は、書けませんが、読むことはできますよね。
「蜜柑」「林檎」「怪獣」「救急車」「餃子」「苺」「兎」「象」「豚」「宇宙人」などの具体的な概念を表す漢字は、子どもに数回見せただけで覚えてしまいます。近くに小さい子どもがいたら試してみてください。
多くの幼稚園、保育園では「幼児は漢字が読めないだろう」という先入観から、子どもの名前をひらがなで下駄箱に書いていたり、「ひらがなもまだ読めないだろう」と健ちゃんは車、綾ちゃんはイチゴなどのシールを貼ってそれぞれの子どものマークを決めている園もあります。
でも、これを漢字にすればシールを使わなくても自分の場所が瞬時にわかります。ついでにお友達の名前も漢字であっという間に覚えてしまいます。
ひらがな表はアラビア文字を見せられているのと同じ
つまり、子どもにひらがな50音表をトイレに貼って「覚えなさい!」とするのはアラビア文字を見せて「覚えろ!」と言っているのと同じこと。意味のない記号の集合体を見せられている状態です。
私たち大人はアラビア文字を記憶することなんか不可能です。それでも、子どもはみんな生まれて数年のうちに日本語が話せるようになるくらい記憶力が高いので、このアラビア文字と同類の似たような形のひらがな50音もいつの間にか覚えてしまいます。
脳に障害がある子どもに指導したことで見えてきたこと
私は長年、障害児の指導にも携わっていますが、以前一人のダウン症の子どもを指導し、その子が6歳から24歳になるまで関っていました。
その子は「蜜柑」「葡萄」「卵」「餃子」「牛乳」「焼肉」「象」「猫」「冷蔵庫」「風呂」の漢字は驚くほどよく覚えました。また、その子は中華料理が好きだったので「冷やし中華」「餃子」「麻婆豆腐」「焼売」の漢字はあっという間に覚えてしましました。
けれども、意味のない記号のひらがなは自分の名前であっても成人しても覚えることができませんでした。
障害がある子どもを相手に指導すると何がやさしくて、何が難しいのかが手に取るようによくわかります。健常児は漢字もひらがなも同じようによく覚えるので、どちらがやさしく、どちらが難しいのか大人には正しく把握できないのです。こうやって間違った固定観念が植え付けらていくのかもしれませんね。
まとめ
本が読めるということは言葉として文字が頭に入っていることです。
そのとき与える文字はひらがなよりも、漢字で書かれていた方がわかりやすいのです!
でも、世の中の絵本は全部、ひらがなで書かれていますよね。でも、漢字が頭に入っているとひらがなばかりで書かれた文章を読むときも、“拾い読み”することなく、自分の頭の中にある漢字に置き換えて読むようになります。ですから漢字力のある子は読解力が高く「やまにしばかりに」と書かかれている文章を理解するとき、誤まって「芝刈り」とはならないわけです。
漢字かな交じり文の絵本がベストだとは思いますが書店では売られていません。でも、ネットで漢字の絵本と検索すると幼児用の漢字かな交じり文の絵本も数社から出版されていますので取り寄せてみてはいかがでしょうか
また、手間がかかりますがママがワードでひらがなの文章を漢字かな交じり文に直して、ひらがなの文章の上から貼り付けてオリジナル絵本を作るのもよいですよ。
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