(c)WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

監督:ジェームズ・ホーズ

出演:アンソニー・ホプキンス、ジョニー・フリン、レナ・オリン、ロモーラ・ガライ、アレックス・シャープ、マルト・ケラー、ジョナサン・プライス、ヘレナ・ボナム=カーター

配給:キノフィルムズ

※6月21日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国ロードショー

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第二次世界大戦前夜、ナチスの脅威から子供たちを救った実話を基にした本作。

自分は知らなかったんですが、ドイツのオスカー・シンドラーや、リトアニアの日本領事館にいた杉原千畝のように、英国にもユダヤ人の亡命を助けた人物がいたんですね。

本作が面白いのは、50年後、年を重ねた主人公ニコラス・ウィントンを演じるアンソニー・ホプキンスが軸になっていることです。

当時を回想するシーンでは、若きニコラスを別の俳優が演じているのですが、面影がホプキンスと似ているせいか、違和感なくリアリティーを感じられます。

ニコラスの娘が書いた著書を原作に映画化を着想したときには、まだご本人はご存命で、「映画化するなら自分を賛美するのではなく、ごく普通の人々が大きな影響を及ぼすことができるということを称える作品に」と話していたとか。

現代も作られ続けるナチス時代の映画

当時、ニコラスたちが奔走し、チェコ・プラハからイギリスに逃がした子供たちが669人。それぞれ家族を持ち、50年後には6000人の命につながっているのですが、ニコラスは最後に救えなかった250人のことが忘れられず、自分を責め続けて生きてきた。

だからこそ、あるTV番組の特集でかつて助けた子供たちと再会を果たしたときも、ことさらに感涙にむせんだりすることなく、あえて全体のトーンを淡々としたものにしているからこそ、逆に見ている側に命の重みが伝わってきます。

それにしても、ナチス時代を描いた映画、このコーナーでもどれだけの数を見てきたことでしょう。

それでも今なお新作が作られ続けている。現代になってもよくぞこれほど細部まで再現できるなと感心します。

にしても一番の皮肉は、イスラエルとパレスチナ間で戦争が再び始まり、ユダヤ側からパレスチナ自治区へのジェノサイドに匹敵する攻撃が続いていること。もはや、抑圧されているのはユダヤ側ではなくなっているところが皮肉です。

さらに、戦後にイスラエルを建国してパレスチナ人を追い出し、その後の軋轢の火種を残したイギリスが本作を製作しているのも大皮肉で、単純な美談で終わりません。

映画化をきっかけに、こんな戦争をやめましょうとなればよいのですが。

モデルとなったニコラスは、100歳を超える長命を保たれたそうですが、もし今の戦争を知ったら、何とおっしゃるでしょう。

ホロコーストの実態を知る人が次々と亡くなる今、こんなことが実際にあったと伝えるナチス映画は、やはり作られ続けなければならないんでしょうね。

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。