森永卓郎 (C)週刊実話Web

アメリカ半導体大手のエヌビディアの株式時価総額が6月5日に3兆ドル(日本円で約470兆円)を超えた。

これでアップルを抜き、マイクロソフトに次ぐ時価総額世界2位だ。

日本のGDP(国内総生産)が592兆円だから、エヌビディアはたった1社で、その8割を占めることになる。

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エヌビディアに投資資金が集中しているのは、同社が人工知能で使われるGPU(画像処理素子)で8割という圧倒的なシェアを持つなど、他社を寄せ付けない技術を誇っているからだ。

そのため、エヌビディアの半導体はどんどん値上げされ、今年2~4月期の営業利益率は65%に達している。

エヌビディアを上回って時価総額1位となっているマイクロソフトも、評価の材料はチャットGPTを運営するオープンAIへの投資で、まさに人工知能が米国の株高を支える構造となっている。

投資家は、今後生成AIが社会を変え、巨大産業に育っていくという期待をしているのだが、私はそのこと自体がバブルの証左だと考えている。

「狂乱の時代」と呼ばれた1920年代、アメリカは自動車とラジオのブームに沸いていた。

ヘンリー・フォードは、大量生産方式の確立で、T型フォードの価格を工場労働者でも買えるところまで引き下げた。

ラジオの登場は、アメリカ人のライフスタイルを根底から変えた。

そしてフォードの自動車もゼニス社のラジオ受信機も、圧倒的な技術的優位性を保っていた。

「ニュー・エラ(新しい時代)」が到来したと人々が囃し立て、株価は実力をはるかに超えて上昇していった。

その反動が1929年10月の株価大暴落につながったのだ。

生成AIがパクリと詐欺の片棒を担ぐ?

いま世界の株価を空前のレベルに引き上げている生成AIは、100年前の自動車やラジオと比べて、どれだけ人類の暮らしを改善するのだろうか。

少なくとも現状では、生成AIが持つ創造性は、人間に到底及ばない。一言でいえば、凡庸なものばかりが出てくる。

高性能GPUは、ゲームの画面を高精細かつ滑らかにしたが、画期的に面白いゲームを生み出したわけではない。

生成AIが活躍しているのは、ネット空間からのアイデアやキャラクターの盗用とSNS型投資詐欺において著名人の映像や音声を作り出すことくらいだ。

つまり、生成AIがやっているのは、パクリと詐欺の片棒を担ぐことなのだ。

エヌビディアの圧倒的技術優位がそんなに長続きしないことも、歴史が証明している。

フォードと同じ品質の車はすぐに他社も作れるようになったし、ラジオやテレビの受信機を作り出したゼニス社は、会社自体がすでに人々の記憶から消えている。

近年でも、ネットブラウザのネットスケープは、インターネット・エクスプローラーに取って代わられ、それがグーグルに置き換わっている。

「驕れる者も久しからず」なのである。

逆に言えば、生成AIにすべてを賭けるしかないほど、世界はいま新産業のネタに窮しているのではないか。

大阪・関西万博への関心が高まらないのも、いま、人々の暮らしを一変させるような新しい技術がどこにも存在しないからだろう。

そのことは、世界を巻き込んだバブルが、いよいよ終末期を迎えたことを意味する。

これから行う株式投資には、とてつもない暴落リスクが潜んでいることを忘れてはならないだろう。