ライター歴20年目で、無理だと思っていた「作家」を目指した理由。佐藤友美が語る。

ライター・コラムニストの佐藤友美(以下、さとゆみ)さんは、ライティング未経験からフリーランスに転身。著者の代わりに書籍のライティングをしたり、ビジネス系Webメディアでインタビュー原稿を書いたり、自身の体験や意見をもとにエッセイやコラムを執筆したり、書くことに関して幅広く仕事をしながら、20年以上活躍しています。

2024年3月に出版した最新刊『本を出したい』や『書く仕事がしたい』など自著は計9冊にのぼります。また、自身でライティング講座を主宰し、数多くのライターの育成も行ってきました。ゼロからキャリアを切り拓いてきたさとゆみさんに、書く仕事の魅力やフリーランスとして生き残るための秘訣、仕事と人生を楽しむための考え方を聞きました。

書くことは自分探究。「書く」を通じて考えるのが好き

会社員からフリーライターに転向し、20年以上書く仕事を続けてきたさとゆみさん。書くことは「自分探究」だといいます。

「書く仕事の面白いところは、自分を知れること。インタビュー原稿では取材相手について書くわけですが、実は書き手の人柄や嗜好が原稿に現れるんですよ。人のことを書きながら『私ってこんなことを考えていたんだ』『自分はこういうポイントを魅力的に感じるんだ』などの発見がある。お金をもらって自分探究ができるのが楽しいんです」

ライターのキャリアの始まりはファッション誌でした。日本で初めて「ヘアライター」と名乗り、美容専門誌での執筆やオウンドメディアの編集長も経験。書籍のライティングやビジネス系のインタビュー原稿、書評コラムの執筆など、さまざまな分野で書き続けてきました。

「好きなことを仕事にしている」さとゆみさんですが、書くことはあくまでも手段に過ぎないといいます。

「私が一番好きなのは『考える』こと。今の自分には、書くことが考えるための最も良い手段だと思っているので、書いているんです。ほかの手段があるなら、書く仕事を別のことに置き換える可能性はあるかもしれません」

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仕事もソフトテニスと同じように戦略で勝負

書く仕事を目指すきっかけになったのは、大学時代の卒業論文でした。

さとゆみさんが書いた卒業論文のテーマは、小説とノンフィクションの違い。1948年に起こった未解決の銀行強盗殺人事件・帝銀事件について書かれた小説『小説帝銀事件』とノンフィクション『日本の黒い霧』(いずれも松本清張著)を比較し、小説とノンフィクションの表現方法、作家にとって小説とノンフィクションを書く意味の違いを分析しました。

「松本清張さんは小説を書いた後にノンフィクションを書きました。なぜノンフィクションを書いたのか。それは小説では表現しきれなかったことがあったからではないか。この3行を書くために、ノンフィクションを出したのでは。そんなふうに仮説を立てて分析するのが、すごく面白かったんです」

卒業論文の執筆を通して考えることの楽しさを知ったさとゆみさんは、文学の研究者を志します。しかし、当時の学業成績では大学院進学は難しく、研究者の道は断念。会社員を経て、24歳でフリーライターに転身しました。

ライティング未経験からのスタート。そこから仕事を獲得し続け、今では依頼が途絶えないライターになりました。さとゆみさんのポリシーは、持って生まれた才能ではなく、戦略で勝負すること。職業人としてのあり方を学んだ原体験は、5歳から18歳まで取り組んだソフトテニスでした。

さとゆみさんは体格や運動神経に恵まれていたわけではありませんが、中学3年生の時に個人戦で全国優勝を果たします。身長が低くても、足が遅くても勝てるようになる。その指導をしてくれたのは、小学校の教員でソフトテニスの指導者として全国的に有名だった、さとゆみさんの父でした。

ソフトテニスチームに入部直後、まず部員に課されたのは、統計を取ること。試合を見て、プレイヤーがどんなボールを打ったか、どんなボールをミスしたか、どういう理由で点数が入ったかのデータを集めます。その後、データを見ながら「このコースにくるボールが一番多いから、これを優先的に練習しよう」「このコースは、10試合に1回くらいしかこないから、練習しなくていい」と練習の戦略を決めていったそうです。

「父の指導は、人生において大きな学びになりました。仕事もソフトテニスと同じように取り組めばいいのではないかと思ったんです」

さとゆみさんはソフトテニスでの学びを仕事に応用。ライターとして生き残るためには、何が重要なのか。ほかのライターが書く原稿を読み込んだり、編集者に直接聞いたりしながら、徹底的に考えたのです。その結果、特筆した文章力は必要ないことが分かったといいます。

面白い文章は書けなくてもいい。まずは、間違っていないこと。次に、分かりやすいこと。ここまでクリアすれば、仕事には困らないと気づきました。こうして、さとゆみさんは分かりやすい文章を書くことを追求し、仕事の途切れない売れっ子ライターになったのです。


佐藤友美さんの著書『本を出したい』と『書く仕事がしたい』