1975年から1994年まで放送されたアニメ番組『まんが日本昔ばなし』は、ほのぼのする話もあれば、トラウマになるような「恐怖回」もありました。今回は、夏に観ると余計怖い、川や海の恐ろしい昔話を振り返ります。
『まんが日本昔ばなし』の傑作怪談回を振り返る特集の「時空旅人 2021年9月号」(三栄)
【画像】え…っ? 「子供泣くって」「絵柄可愛いけど怖い」 これが『まんが日本昔ばなし』恐怖回の風景です(4枚)
最終回の最恐エピソードを手掛けたのは
1975年から1994年までレギュラー放送され、お茶の間を楽しませてきた人気アニメ番組『まんが日本昔ばなし』では、定期的に恐ろしい「トラウマ回」も放送されてきました。さまざまな恐怖回が今でもネット上で話題になっています。そのなかでも、夏に観返すと怖い、川や海の「水回り」の恐怖回を振り返ります。
「佐吉舟」1980年8月9日放送
かつて、八丈島に「太兵衛」と「佐吉」という、お互いに腕の良い仲良しの漁師が住んでいました。そのふたりは船主の娘「ヨネ」のことを、同時に好きになりました。ヨネもふたりに好意を持っており、それを知った船主は、より漁師として稼ぎのいい方に娘を嫁がせると言うのです。それから、太兵衛と佐吉は好きな女性のためにいがみ合い、敵対するようになりました。
互いに競うように魚をとっていたある波の静かな日、佐吉の舟は驚くほどの大漁となります。一方の太兵衛は全く魚がとれないなか、佐吉は夢中になって漁を続けました。そして、佐吉の舟が魚で満杯になった頃、大波が襲ってきました。佐吉の舟はひっくり返って沈んでしまい、溺れそうな佐吉は太兵衛の舟に助けを求めます。
それに対し、太兵衛は舟に乗せる代わりにヨネをあきらめるように言い、佐吉はそれを断って強引に太兵衛の舟に乗り込もうとしました。そして怒った太兵衛は舟の櫂(かい)で、佐吉の頭を何度も殴ってしまいます。
再び舟を波が襲ったとき、佐吉の姿は海に消えていました。我に返った太兵衛は、村へと逃げ帰って家にこもり、佐吉を探す村人たちに事情を聞かれてもしらばっくれます。
それから数日後、太兵衛が再び海へ出ると、異様なまでに魚がとれるようになりました。そこへ、青白い顔の佐吉が舟に乗って姿を現します。「柄杓を貸してくれ……」と手を差し出してくる佐吉に、太兵衛は柄杓を渡してしまいました。
佐吉は淡々と柄杓で海水をすくい、太兵衛の舟へと注いでいきます。太兵衛は佐吉がもうこの世の人間ではないと悟り、謝って命乞いをしますが、佐吉の手は止まりませんでした……。
仲の良かったふたりが恋敵となって争い、両方とも死んでしまう結末は、今観返しても恐ろしく悲しいものです。「人間の恐ろしさが顕になる話でトラウマ」「佐吉が撲殺されるシーンも生々しいし、よく放送したな」「色恋の話だから精神にも来るしヤバイ」と、屈指のトラウマ回として語り継がれるようになりました。
「イワナの怪」1976年7月17日放送
昔、南会津の山奥を流れる水無川の上流での出来事です。ちょうど夏の盛り、4人の木こりたちが山に入るも暑くてにならず、彼らは川に毒を撒いて魚を一気にとる「根流し」を行うことにします。
小屋で木の皮や根っこ、葉っぱを灰と一緒に煮て「根(毒)」を作りながら酒盛りをしていると、谷川の方からひとりのお坊さんがやってきて、小魚まで死んでしまうような惨い根流しはやめるよう諭してきました。木こりたちはお坊さんを不気味に思いながらきび団子をめぐみ、その場ではやめると言いますが、彼らは翌日予定通り淵で根流しを行ってしまいます。
そして、もっと大きな魚をとろうと上流の「底無しの淵」まで行って根を撒くと、1匹の巨大なイワナが腹を見せて浮かんできました。木こりたちがそのイワナの腹を裂いてみると、昨日お坊さんにあげたきび団子が出てきます。木こりたちがあのお坊さんがイワナだと悟ったとき、根流しを提案したリーダー格の木こりはばたりと倒れ、こと切れます。
残りの木こりたちは恐ろしくなって魚を残して逃げ帰り、しばらくして根に汚染された川は元通りきれいになりました。イワナの目を見てお坊さんの恐ろしい目を思い出す演出や、環境破壊に警鐘を鳴らすような物語のインパクトは絶大で、こちらもトラウマ回として覚えている方が多いようです。
「影ワニ」1986年5月17日放送
昔、石見の国(今の島根県)に、凪の海では船乗りの水面に映った影を食べて殺す「影ワニ(鮫)」が出るため、その日は漁に出てはいけないという言い伝えがある漁村がありました。
それを信じず、不満を持っていた若い漁師「ごんぞう」は、せっかく波もなく漁ができる日に海に出ないなどバカげていると、ある凪の日に海に漁に出ます。村長や村民たちは止めようとしますが、彼は聞く耳を持ちません。
そして、沖へ出たごんぞうが漁をはじめると、いつも以上の大漁となります。彼は夢中になって漁を続けていましたが、海中から謎の大きな影が近付いてきました。
そして、その影が海面に映るごんぞうの影に近付くと、ごんぞうの服が裂け、身体から血が出ます。言い伝え通り、漁師の海面の影を食べる影ワニが出てきたのです。
ごんぞうは凪の海に映る自分の影を食べられ、どんどん弱っていきました。船に積んだ魚を海に捨て、自分の影を揺らすことで影ワニの攻撃は急所を外れますが、ごんぞうは出血で体力を奪われていきます。そんななか、ごんぞうは村長の「影ワニが出たときは、海面に映る自分の影を隠せ」という忠告を思い出しました。
ごんぞうは船の下に敷いてあったむしろを海に投げ入れ、自分の影を消します。それでも、影ワニはむしろを攻撃し、それを防ごうとするごんぞうはどんどん体力を奪われていきました。そのまま日が暮れると、影ワニは姿を消します。そして、ごんぞうは村長たちに救出され、その後、彼は凪の日に猟に出ることはありませんでした。
この回は映画『ジョーズ』のような海洋ホラーとして、大きなインパクトを残したようです。「影ワニが現れた時に海鳥が急に羽だけになって消えるシーンが怖い」「この回を見て海に入れなくなった」「私にとってサメの話の原点と言ったら子供の頃にまんが日本昔ばなしで観た『影ワニ』」と、こちらもトラウマ回として有名です。