古来より「判官贔屓」という言葉があるように、ラブコメ作品における「負けヒロイン」を推す嗜好は確かに存在するようです。昭和からいまに至るまで語り継がれる、負けたからこそひときわ輝くヒロインたちを追います。



2024年10月放送予定の新作アニメ『らんま1/2』キービジュアル (C)高橋留美子・小学館/「らんま1/2」製作委員会

【画像】こちらがおかしくなりそうなくらいかわいい「シャンプー」の「キス待ち顔」です(6枚)

心を掴んで離さない「負けヒロイン」

 ラブコメにはつきものの、メインヒロインに恋愛で敗れる「負けヒロイン」にスポットを当てた2024年夏アニメ『負けヒロインが多すぎる』が話題です。

 こと恋愛を扱うコンテンツにおいては、いにしえより存在した「負けヒロイン」、なかには「むしろこっちの子の方が好き」というファンをしっかりと獲得し、昭和から平成をまたぎ令和のいまにいたるまで根強い人気を誇るキャラクターもいます。果たしてあの時代には、どのようなアニメの負けヒロインたちが少年たちの心をとらえていたのでしょうか。

シャンプー 『らんま 1/2』

 アニメ『らんま 1/2』(原作:高橋留美子)に登場した「シャンプー」は、中国の武闘民族である女傑族の一員で、修行中だった女「らんま」に敗れ、部族の「他所者に敗れた場合、相手が女ならその相手に死の接吻を与え、殺さなければならず、相手が男なら夫としなければならない」という掟に従い来日した格闘家です。

 天道道場へたどり着いたシャンプーは、暴れていたところを男「乱馬」に倒され、やはり掟に従い求婚します。ところが、男乱馬と女らんまが同一人物だと知り、涙ながらに帰国する羽目となりました。

 その後、呪泉郷で修行に臨んでいる最中に猫溺泉に落ち、水をかぶると猫になり、お湯をかぶると元に戻る体質になってしまいます。再来日後は、中華料理店「猫飯店」で働きながら乱馬への求婚を繰り返すも、乱馬の「あかね」への愛ゆえに、シャンプーの行動が実ることはありませんでした。

 なおマンガ版の最終回では、乱馬とあかねの結婚式に際し、幼馴染の「ムース」に「お祝いの肉マン作るから手伝え」と笑顔で語り掛けています。このふたりの関係がどうなったのかも興味深いところです。

 シャンプーは天道あかねを一蹴するほど戦闘力が高く、かなりの美少女な上に女らんまに匹敵するスタイルを持つなど、魅力をてんこ盛りにしたキャラクターといえるでしょう。2019年にNHKで実施されたアニメ投票企画「全るーみっくアニメ大投票」では、『らんま1/2』のキャラクターとしては最高位となる4位に付けており、シャンプーを愛する人は大勢いる様です。

檜山ひかる 『きまぐれオレンジ☆ロード』

 アニメ『きまぐれオレンジ☆ロード』(原作:まつもと泉)に登場した「檜山ひかる」は、主人公「春日恭介」の2学年下で、恭介の妹である「まなみ」と「くるみ」の同級生です。ヒロインの「鮎川まどか」とは幼馴染で姉のように慕っており、底抜けに明るい性格のため多くの人に好かれています。

 恭介との出会いは、校内でまどかと喫煙しているさなかという、なかなかのシチュエーションでした。このときひかるはまったく興味を示さなかったものの、しかし恭介が体育館で、超能力を使いバスケのロングシュートを決めたのを偶然見て、スーパースポーツマンだと誤解し好意を抱くようになります。アプローチに関しては恭介を「ダーリン」と呼んだり、いきなり抱き着いたりと積極性を見せ、周囲を困惑させていました。

 性格面でひかるは少々幼いところがあり、人の気持ちを察する力が弱く、恭介とまどかが事実上の相思相愛であることも、幼馴染の「火野勇作」から好意を寄せられていることにも、なかなか気付くことができませんでした。

 最終的には恭介とまどかの気持ちを周囲から知らされ、悲しみのどん底へと落とされます。それでも何とか立ち直り、まどかがアメリカに留学する際には見送りのために駆け付け、土下座して謝罪する恭介に対して平手打ちをお見舞いするなど、負けヒロインとしての役割を最後まで果たし切りました。

 ショートカットと天真爛漫な性格が魅力的なひかるは、人から愛される資格を十分に備えたヒロインです。ただ、恭介と鮎川との間に芽生えていた特別な絆を上回ることができなかったという、それだけの話なのでしょう。



五代くんとはなんだかんだと長い付き合いだった七尾こずえ。『めぞん一刻』第3巻 著:高橋留美子 (小学館)

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今の時代なら、五代くんはどちらを選ぶのか

七尾こずえ 『めぞん一刻』

「七尾こずえ」は、アニメ『めぞん一刻』(原作:高橋留美子)に登場した「音無響子」のライバルヒロインです。高橋留美子先生いわく「ライバルというより、響子の心をざわつかせる」存在で、「大切なことを言わせない」キャラクターとして作品をかき回しましたが、本人はマイペースでかわいい普通の女の子でした。

 主人公である「五代祐作」のひとつ年下となる大学生で、バイト先(原作では元バイト先)の知り合いとして登場を果たしました。こずえにとって五代は初恋の人に似ており、こずえからおねだりする形で映画デートにこぎつけて食事をしたり、腕を組んで歩いたりと異常なまでの積極性を見せています。

 その後も自宅に招いて家族に合わせるなど五代への好意を示し続け、奥手の五代ですら手を出しかけたことがあるほどでした。不意討ちで五代にキスをした際には、あろうことか響子さんにその光景を見られてしまい、五代は大ピンチに陥ります。

 しかし実際には、既にこずえは社会人となっており、同僚からプロポーズを受けて断れずにOKを出してしまっていました。最後にふたりはきちんと話をして、互いの関係を美しいまま終わらせる決断を下します。その後、こずえは夫と共に名古屋で暮らしていることが明かされました。

 こずえは積極的に距離を詰めてくるかわいい女の子であり、五代が誘惑に耐えられたのは響子への思いがあったからでしょう。しかしいま改めて『めぞん一刻』を読み返してみると、響子は嫉妬深い上にやきもち焼きで、感情的になるとかなり理不尽なことを言いだす女性でもあります。五代くんが、当時とは大いに変わったであろう現代の価値観を持つ人物であれば、もしかしたら大逆転の可能性もあったかもしれません。