映画『THE FIRST SLAM DUNK』は、サブスクでの配信や復活上映と話題が尽きません。この映画には登場しませんが、原作では欠かせない人気キャラはたくさんいます。今回は、そのうちのひとりで、山王戦で赤木を救った、ひいては湘北を救った「魚住純」という男を取り上げます。



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山王戦の「赤木復活」に欠かせなかった大切なライバル

 2024年8月13日に復活上映が決まり話題が再燃しているのが、映画『THE FIRST SLAM DUNK』です。湘北高校と山王工業戦にフォーカスした作品であるため、原作の人気キャラであっても登場シーンが、ほんのわずか、という人物もいます。今回は、原作の人気キャラで、名シーンも生んだ「魚住純」という男を取り上げます。

 陵南高校の魚住は、試合に遅刻してくるエース「仙道彰」や、プライドが高くストレスに弱いスコアラー「福田吉兆」といったクセの強いメンバーから絶大な信頼を受け、まとめあげるキャプテンです。

 また、その顔面から「桜木花道」は「ボス猿」とあだ名しますが、202cmの巨躯で対戦相手を圧倒しました。そして、湘北のキャプテン「赤木剛憲」とはライバル関係にあり、かつて完膚なきまでに抑えられた経験から打倒に燃え、試合前の握手を拒否するほど闘志をむき出しにする一面もあります。

 実力があり、評価もされている一方で、魚住はこんな心情をもらしたことがあります。

「ウチには点のとれる奴がいる。オレはチームの主役じゃなくていい」

 神奈川予選の湘北戦で赤木とマッチアップしていくうちに、魚住は自分と比較し「ゴール下の得点感覚、奴(赤木)のそれは天性だ。オレにはない」と、潔く認めます。

 しかし、魚住は「オレの負けなのか。イヤそうじゃねぇ」と、自分が得点しなくても仙道や福田といった強力なオフェンス陣が活躍できるプレーイングをすれば、チームは勝てると気付きました。

 県予選で湘北に敗北し、インターハイ出場を逃してしまった魚住は、冬にも大きな大会があるにもかかわらずチームメイトに部活引退を宣言します。その理由は、夢である家業の板前修業に入るためでした。

 部活動に一区切りつけた魚住は、映画版でも描かれたインターハイの「湘北対山王戦」の応援に駆け付けます。そこで、魚住が間に当たりにしたのは、山王の「河田雅史」とマッチアップする赤木の情けない姿でした。

 優勝候補筆頭の山王と戦う赤木は、河田との実力差に手玉に取られ、圧されまくりで自分のプレーを見失い「オレはこの男に勝てるのか!?」と自信が揺らぎ、その姿に魚住は「あんなかっこ悪い赤木は、初めて見たな」と失望します。

 やがて、河田との接触プレーでコートにうつぶせに倒れ、赤城は気を失いました。ここで登場するのが、原作ファンなら嫌いなものはいない(?)、映画版では割愛された名シーン「魚住の大根かつら剥き」です。

 板前姿でコートに乱入した魚住は、包丁と大根を持ちおもむろに「かつら剥き」を始め、その皮を倒れている赤木の後頭部に落としていきます。目覚める赤木と騒然とする会場……。魚住は、職員に連行される背中で、赤木に語りかけました。

「華麗な技をもつ河田は鯛。お前に華麗なんて言葉が似合うと思うか、赤木。お前は鰈(カレイ)だ。泥にまみれろよ」

 このシーンを安西先生が分かりやすく説明しています。大根を薄く切るとツマになり刺身の引き立て役になる。つまり湘北には主役になれる選手がたくさんいる、ということを魚住は言いたかったのだろう、と推し量りました。

 そう、魚住自身が湘北戦で気付いた「自分が主役じゃなくていい」を赤木に遠回しに伝えたわけです。さらに、赤木は「泥にまみれる」=「体を張ってチームメイトの才能を発揮させる」と気付き、自分らしいプレーを取り戻して、高校バスケ界の頂点である山王を下しました。

 ライバルに気付きをもたらし、山王撃破の遠因をつくった魚住は、ひょっとすると全キャラ中、もっともキャプテンシーの高いプレイヤーだったのかもしれません。