今なお高い人気を誇る「勇者」シリーズは多くの人気作品を生み出しました。その「お約束」ともいえるシリーズ共通の設定の一部は、とあるロボットアニメシリーズから引き継いだものです。
勇者シリーズといえばこんな構図もお約束。「SMP ALTERNATIVE DESTINY 勇者エクスカイザー キングエクスカイザー」(バンダイ) (C)サンライズ
【画像】合体→パワーアップの様式美 こちらが「グレートエクスカイザー」です(6枚)
勇者シリーズにバトンタッチしたロボットアニメとは?
1990年代ロボットアニメの最高峰と評価も高い「勇者」シリーズは、8年にもわたって継続され人気を博した一連の作品群です。同シリーズが開始される前、これらの前身ともいえるような、大きな影響を与えたロボットアニメシリーズがありました。
それが1980年代後半、子供たちから大きな支持を得たロボットアニメ「トランスフォーマー」シリーズです。ファンならば知っている人も多いでしょうが、改めてその経緯を振り返ってみましょう。
シリーズ第5作となる『戦え!超ロボット生命体 トランスフォーマーV(ビクトリー)』は、オモチャの売り上げも良く、商業的には成功を収めた作品でした。ところが、視聴率はTV局の満足いく数字に届かず、5年続いたアニメシリーズもここで一度、終了することとなります。
このシリーズを継ぐことになるのが、勇者シリーズ第1作となる『勇者エクスカイザー』でした。しかし、そう簡単にシリーズを引き継いだというわけではありません。結果的にそうなったという方が正しいでしょうか。
勇者シリーズを制作することになるサンライズはそれまで、『機動戦士ガンダム』をはじめとして多くの「リアルロボットアニメ」を世に送り出してきました。この波は他社にも影響し、やがてリアルな作風がロボットアニメの主流となります。これによりロボットアニメは、本来の子供よりも上の年齢層に受け入れられるようになりました。
この若者世代の台頭で、ロボットアニメの商品は合金製のオモチャから、徐々にプラモデルへと軸足を変えていきます。もちろんすべての作品がそうというわけではなく、低年齢層にはオモチャ、高年齢層はプラモという二極化が極端に進みました。
しかし、やがてプラモの売り上げも一時期ほどの勢いを失います。『機動戦士ガンダム』以降、ロボットアニメを放送していた名古屋テレビ制作番組の放送枠も、『機甲戦記ドラグナー』が最後のロボットアニメとなりました。ここで、それまでスポンサーだったバンダイは戦略の見直しのため、この放送枠から一時撤退をします。
『宇宙伝説ユリシーズ31』を挟んで、この時間枠のスポンサーは「タカラ(現在のタカラトミー)」へと変わり、『鎧伝サムライトルーパー』『獣神ライガー』といった、ロボットアニメには分類されない作品を放送しました。その一方で、サンライズはかつてのヒーロー然としたロボットアニメの企画を考えていたそうです。
スポンサーとなるタカラはトランスフォーマーシリーズ終了後、海外マーケットにとらわれない玩具展開ができるアニメを模索していました。
この両者の思惑が合致して、勇者シリーズがスタートします。もちろんシリーズ化の意図は最初からなく、結果的に人気作品となった『勇者エクスカイザー』の後を引き継ぐことでシリーズへと発展しました。
そういう意味では、『勇者エクスカイザー』も大いなる実験作だったといえるでしょう。しかし当時の空気感を考えると、人気要因はほかにもありました。それは『勇者エクスカイザー』が、トランスフォーマーシリーズの後継者として見られていた点です。
『トランスフォーマーV』最終回の翌月から放送開始した『勇者エクスカイザー』は、期待を込めて、多くの人から「サンライズが制作するトランスフォーマー」という色眼鏡で見られていました。
そこには大きなふたつの共通項があったからです。そして、その共通項は後々、勇者シリーズの「お約束」として受け継がれることになりました。
シリーズ第一作「キングエクスカイザー」をスタイリッシュアレンジ。「SMP ALTERNATIVE DESTINY 勇者エクスカイザー キングエクスカイザー」(バンダイ) (C)サンライズ
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トランスフォーマーと勇者にあった共通点とは?
共通項のひとつ、それは「意志を持ったロボットが乗りものに変形して戦う」という部分です。
有り体にいってしまえば、「スポンサーであるタカラの販売するオモチャをカッコよく見せるアニメ」でしょうか。もっともこれは、ほとんどのロボットアニメに同じことがいえてしまいますけれども。
「商品となるオモチャが乗りものに変形すること」この点を引き継いだことで、「勇者」は「トランスフォーマー」と、ロボットアニメのなかでも同じジャンルとなりました。スポンサーの商品が同系統なのですから、この点は外せない要素だったといえるでしょう。
もうひとつはドラマ部分の設定にあたる個所でした。それが「ロボットと少年の交流」です。意外に思われる人もいるかもしれませんが、この種族を超えた友情、絆といったものが「トランスフォーマー」と「勇者」にあった共通項でした。
シリーズ第1作『トランスフォーマー』では地球人の少年「スパイク」が、宇宙から来た超ロボット生命体「トランスフォーマー」と出会うことで物語が始まります。そして、この異文明の交流が軸となってストーリーが進展しました。
このトランスフォーマーと少年の物語は後のシリーズにも引き継がれ、さまざまなストーリーを紡いでいくことになります。この部分が「勇者」にも引き継がれました。『勇者エクスカイザー』では、地球人の少年「星川コウタ」と、エネルギー生命体で「宇宙警察カイザーズ」の一員「エクスカイザー」が出会い、絆を深めていきます。
この「少年」と「勇者と呼ばれるロボット」との関係は、シリーズを通してさまざまな形に変化していくものの、物語の中心に組み込まれた大切な根幹ともいえるものでした。しかし、どうして勇者シリーズでもこの要素が重要となったのでしょうか。
それは「少年」イコール「TVを見ている視聴者たる子供」だからかもしれません。つまり画面の中の少年に自分を投影することで、子供たちは勇者を身近に感じられるからでしょう。それは「勇者を手元に置きたい」イコール「オモチャを欲しくなる」ことにつながります。
かつてのロボットアニメは、主人公ロボのパイロットに自身を投影することで、そのオモチャへの購入意欲を盛り上げていきました。それが勇者シリーズでは、頼もしい仲間、強い味方といった方向になっていったと考えられます。ゆえに作品に登場する勇者の数が増えれば、それをすべてそろえたくなるという購入意欲へとつながるのでしょう。
もちろん、これはひとつの見方であり、勇者シリーズの絶対的な魅力のすべてではありません。しかし8年もの間、代替わりした子供たちを引き付けた要素のひとつではないかと考えます。
奇しくも勇者シリーズが最終作『勇者王ガオガイガー』でピリオドを打った1997年に、反対にトランスフォーマーの新シリーズである『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』の日本でのTV放送が始まりました。勇者シリーズに渡ったバトンは、ふたたびトランスフォーマーへと受け継がれたというわけです。