おなじみ「旧ザク」こと「ザクI」、その対抗馬だったというモビルスーツ試作機「EMS-04」をご存知でしょうか。後の「EMS-10ヅダ」であり、その虚構と悲哀にまみれた機体は、しかし、MS開発史上にきっちりと足跡を残すものでした。
「高機動」というコンセプトがポイントの「ヅダ」。画像は「HG 1/144 ヅダ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
【画像】「えっ、絶対に乗りたくない…」こちらが実は欠陥を抱えたMS/MAです(4枚)
2度の大事故を起こしながらも足跡を残した「ゴーストファイター」
「ジオン公国軍」の代表的な「モビルスーツ(MS)」の「ザクII」は、さまざまなMSに派生したことを考えると、「ガンダム」シリーズを通してとても大きな存在だったといえます。この傑作MSが誕生したのは、もちろん「ザクI(旧ザク)」の開発があってこそのもので、その誕生はMS史において大きな一歩でした。
しかし、ザクIが日の目を見た裏側には、「EMS-04ヅダ」というMSが存在した事実も忘れてはいけません。
そもそもザクIは「ジオニック社」によって作られたMSで、一方のヅダは「ツィマット社」が開発しました。ふたつのMSは主力機になるべく採用競争を繰り広げ、その結果、性能が総合的に優れたザクIが選ばれたのはご存知のとおりです。
ザクIは宇宙空間と地上での運用が可能だったことに対し、ヅダは宇宙空間での機動力に優れた機体で、性能としてもザクIより上回っていたといわれています。ところが、試作機が飛行試験中に、高推力を実現した「木星エンジン」の加速に耐えきれず空中分解するという大事故を起こし、ザクIとのコンペに敗れたとのことです。
ヅダが初めて登場したのは、OVA『機動戦士ガンダム MS IGLOO 1年戦争秘録』の第3話でした。開発競争に敗れた後も「EMS-04」の改良は進められており、木星エンジンをもとに開発された「土星エンジン」によって、機動性を保持しつつ耐久性も確保した「EMS-10 ヅダ」として完成したのです。しかし、それは政治的謀策によって生まれた嘘の真実でした。
劇中、ジオン公国では「EMS-10 ヅダ」の誕生が大きく報じられ、国民だけでなくジオン軍兵士の士気も大いに高まりました。しかしフタを開けてみれば、それは地球連邦軍に追い詰められたジオン軍がプロパガンダのために配備したもので、かつて空中分解事故を起こしたEMS-04の外装を交換しただけの機体だったのです。実際、評価試験中にEMS-04と同様、1機が空中分解後に大破しました。
「ゴーストファイターとして悲哀を背負ったMS」として描かれたヅダは、最終的にジオン軍本部の判断によって評価試験が中止され、当然、正式採用されることはありませんでした。しかし悲しい事実だけが浮き彫りになったわけではなく、評価試験のテストパイロットを務めた「ジャン・リュック・デュバル」少佐の活躍により、地球連邦軍の量産機「ジム」を撃破、そして、ジムを上回る圧倒的なスピードも発揮しています。
そうしたヅダの「見せ場」は、感動的なシーンであるとして語られることも多く、ネット上には「オデッサの戦闘から宇宙に逃れた地上仕様のザクIIの手を取って助けるヅダは、いまだにグッとくるものがある」「少佐が身をもってヅダがただのゴーストファイターではないことを証明したのは間違いなく名場面」などといった声が聞かれます。
そのように可能性を示したものの、ヅダが悲しい結末を迎えたことに変わりはありません。しかし、ヅダの存在が無駄だったかといえば、「いいえ」という答えになるでしょう。
たとえば土星エンジンは、のちの「リックドム」に採用されました。
また、その後に登場したMS「ゲルググ」は、「高機動型ザクII(ゲルググ先行試作型)」や「高機動型ザク・プロトタイプ」といった、ベースとなる機体からして宇宙空間での「高機動」をうたうものです。これは、結果的にザクとヅダの強みを掛け合わせた機体である、という見方をすると、なんとも感慨深いものがあります。
ザクIとの採用競争に敗れたものの、その後のMSにおいて重要なポイントともいえる「高機動」に目をつけていたヅダの功績は、実はとても大きなものだったのではないでしょうか。