「ガンダム」シリーズのモビルスーツは、多分に架空設定が入りつつも、現実世界とリンクするようなリアルな設定も与えられてきました。そうしたひとつがドムのホバー機構。実はあれ、現実でもかなり近いものが作れるのです。
黒い三連星の乗機でおなじみドム。画像は旧キット。「MG 1/100 MS-09 ドム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
【画像】見た目は同じ中身は大違いな「リック・ドム」ほか「ドム」のバリエーションいろいろ!(10枚)
「ドム」の大いなる特徴のひとつ「ホバー移動」
「ガンダム」シリーズの世界において、傑作とよばれるモビルスーツ(MS)は数多くあります。特に一年戦争中に開発された機体は様々なシリーズ作品に登場し、作品を盛り上げています。
一年戦争中に活躍した各種MSのなかでも傑作機のひとつとして名高い「ドム」は、ジオン軍の強力なMSとして知られます。そのもっとも特徴的な点といえるのが「ホバー移動」でしょう。
「ザク」や「グフ」のような歩行ではなく、滑るように高速で移動するその姿は、まさに世代格差を感じさせるものでした。なぜドムは、このようなホバー移動が可能なのでしょうか。
ドムのホバー移動は、「NTR」によって実現されているとされます。NTRとは「核熱ロケット」の略称で、実在する技術です。この技術を簡単に説明すると、原子炉から発生した熱を利用して「プロペラント(推進剤)」を加熱し膨張させ、その結果として発生する高温高圧のガスをロケット噴射することによって推進力を得ます。宇宙世紀の世界でも「熱核ロケット」と呼ばれているようで、基本的には同等のものであると考えられます。
宇宙空間で機動するMSは、このNTRを使用することで推進力を得ていると考えられます。具体的にどのような物質をプロペラントとして使用しているのかについては定かではありませんが、いずれにせよ「プロペラントタンク」に搭載されたプロペラントの量によって、そのMSが可能な機動の物理的な限界が決定します。
一方ドムについては、何をプロペラントとして使っているのかが明らかになっています。それは「空気」です。
ドムが空気をプロペラントとして利用することには大きな利点があります。空気は地球上に無尽蔵に存在するため、エアインテーク(空気流入口)からいくらでも取り入れることが可能であり、プロペラントタンクの容積に制限されることがありません。すなわち、地球上である限り事実上、無制限に噴射することが可能です。これにより、ドムは長時間にわたってホバー移動を続けることができるのです。
ドム・トロピカルテストタイプ。砂漠でホバーされたら随伴歩兵は大変そう。「1/144 YMS-09 局地戦闘型ドム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
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人類には早すぎる? NTRの難点はやはり…
空気を利用したNTRの一種「原子力ターボジェット」は現実世界の既存技術であり、飛行試験の一歩手前まで行われた例もあります。宇宙世紀の世界では「熱核ジェット」と呼称されているもので、すなわちドムに搭載されている機構です。
原子力ターボジェットのメカニズムは、通常のジェットエンジンと同じように、圧縮機によって空気を吸い込み圧力を高め、燃料に点火する燃焼室の代わりに原子炉からエネルギーを取り出す熱交換器によって空気を加熱、そして膨張した空気はタービンによって回転力が抽出され、この動力は圧縮機の駆動に使われます。最後に空気は排気としてノズルから噴射され推進力となります。
原子力ターボジェットが航空機用エンジンとして実用化された際には、事実上、無限の航続距離を得ることができたはずでした。ところが、原子炉の安全性、放射線遮蔽の問題やコストが非常に膨大であったこと、小型化、軽量化が困難であったことなどから、B-36戦略爆撃機に原子炉だけ搭載した試験飛行は行われたものの、肝心の原子力ターボジェットの空中での運転前に計画が中止されました。
なおモビルスーツが搭載する原子炉は「核融合」方式であり、現実世界で実際に作成された航空機用原子炉は「核分裂」方式と、熱エネルギーを得るための仕組みが大きく異なります。ただどちらを使っても、熱を推進力に変換するためのロケット(ジェット)の基本的な原理は大きく違わないと考えられます。
原子力ターボジェットの欠点は真空の宇宙空間では動作しないことです。そのため宇宙空間での運用を目的としたドムは、改修型の「リック・ドム」として登場しています。