少女マンガ雑誌といえば、時折大人でも怖くなってしまうようなホラー作品が収録されていることもあります。特に「なかよし」に関しては、別冊付録として収録された傑作ホラーの数々によって、全国の少女たちを震え上がらせてきました。



画像は1993年に刊行された「なかよし」の怪奇オムニバス「魔物語」著:松本洋子(講談社)

【画像】超貴重! こちらは少女マンガに付属したホラー作品が再録された本です(3枚)

あれ、お母さんは? ラスト1コマの描写が怖すぎ!

 月刊マンガ雑誌「なかよし」といえば、「りぼん」と「ちゃお」に並ぶ3大小中学生向け少女マンガ雑誌のひとつとして知られています。基本的には恋愛やファンタジーを取り扱うことが多い同誌は、夏頃になるとホラー作品を特集した増刊号が発売されたり、別冊付録がついてきたりすることがありました。

 なかでも1990年代に刊行された「なかよし」の別冊付録「魔物語」と「恐怖の館」は、全国の少女たちを震え上がらせ、いまなおネット上で「なかよしのホラー小冊子が本気出しすぎててトラウマになった記憶がある」「なかなか容赦のない描写が多かった」などと語り草になっています。

「魔物語」に掲載されていた作品のひとつ、松本洋子先生の『にんじん大好き』はその最たる例といえるでしょう。にんじん嫌いの男の子「たかし」を巡る摩訶不思議な現象が描かれており、ラスト1コマに描かれた結末はあまりにも衝撃的でした。

 ある夕食時、たかしは苦手なにんじんを残してしまい、母親から怒られてしまいました。そこで好き嫌いをなくしたいと思い立ち、神様へ「にんじんが好きになるようにしてください」とお願いします。

 すると翌日、たかしの眼前に広がったのは、にんじん尽くしの食卓でした。まさかの出来事に呆然とするたかしですが、勇気を振り絞ってにんじんを口へ運んでみると、なぜかハンバーグの味がしたのです。

 実をいうと彼の目にはにんじんに見えるだけで、実際は別の料理でした。たかしは当てっこゲームの要領で次々と食べ進めます。ついには本物を口にし、母親から「えらいわ」と褒めてもらうのでした。ただ、その後もたかしの異変は収まりません。なんと料理だけでなく、散歩している犬までもにんじんに見えるようになり、このあたりから不穏な雰囲気が立ち込めます。

 そしてある朝、目を覚ますと目の前に大きなにんじんが立っており、たかしはそのにんじんにかぷっとかぶりつきます。「おいしいっっ」「こんなおいしいものがあったんだ!」とその味に思わず感動するたかしでしたが、もうこの頃には人間すらもにんじんに見え始めていました。1階には新聞を読むにんじんの姿があり、恐らくその正体はたかしの父親でしょう。では母親は? ラストの1コマには衝撃的な絵面が待ち構えており、一度読んだが最後、しばらくにんじんが怖くなってしまうかもしれません。



画像は1995年から1997年の3年間、夏の号に付いてきたホラーマンガ特別冊子「恐怖の館」(講談社)

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衝撃のラストに冷や汗が止まらない!

「恐怖の館」に収録されていた『三途の川』という物語も、なかなかショッキングなラストを迎えます。同作は「不気田くん」シリーズや『不思議のたたりちゃん』を手掛けたホラー作家、犬木加奈子先生の作品で、自ら命を絶ってしまった少女を巡る物語です。

 生きていても楽しくないと死んだばかりの少女が、天国を目指して「三途の川」を渡ろうとしました。しかし次第に川の流れが激しくなっていき、どんどん下流へと流されてしまいます。

 同作における「三途の川」は、生前の身体が脱皮するかのごとく脱げていく川で、最後は赤ん坊の姿まで戻らなければなりません。それを恐ろしく思った少女は、慌てて岸へと引き返すと、身体の皮が脱げかけた状態で「この世」に戻されてしまいます。

 ラストに描かれた女の子はあまりにもショッキングな姿です。当然ながら当時の子供たちにトラウマを植え付けたようで、ネット上には「『なかよし』に載っていて良いレベルじゃない怖さだった」「大人になった今でも覚えてる」「皮の描写がもう、ね……」といった声が相次いでいました。

 衝撃的なラストといえばもうひとつ、同じく「恐怖の館」に収録された『家族の食卓』もかなり印象的な結末でした。『とんでもナイト』や『ヒロインをめざせ!』といったコメディ調の作品を手掛ける小坂理絵先生が、まったく異なるテイストのマンガを描いたということで、当時の読者に大きな衝撃を与えたといわれています。

 ある日、学校で「かぞくのしょくたく」をテーマにした絵の課題を出された「千佐」は、ひとり浮かない顔を浮かべていました。どうも彼女の母親が作る料理が美味しくないというのです。

 そこで「私が料理を教えてあげる」と声をかけたのが、お節介焼きなクラスメートの「るり」でした。なかば強引に千佐の自宅を訪れると、ちょうど母親が夕食の支度をするタイミングに出くわします。しかし台所をのぞくなり、千佐は「なにこれ……!?」と動揺し、それっきり姿を消してしまうのでした。

 翌日、教室では千佐が嬉々として課題に取り組んでいます。描かれていたのは、異形の姿をした両親と自分、そしてバラバラになった人間を盛りつけたお皿でした。そして最後は、「るりちゃんのおかげではじめてママのお料理成功したの」「るりちゃんってホントにいい子だね 先生」というセリフで締めくくられています。

 るりは台所で何を見て、その後どうなったのか、そして千佐の両親はいったい……。あえて直接的な描写を避け、読者の想像力に委ねた結末は、『にんじん大好き』や『三途の川』とは、また違った恐怖が感じられるでしょう。

 いずれの作品も、少女マンガ雑誌の付録とは思えない本格的なホラーに仕上がっています。もし閲覧する機会があるときは、くれぐれもご注意ください。