「全猫好きが泣いた……」そんなキャッチコピーが浮かんでくる、ヤノベケンジ氏の「SHIP’S CAT」シリーズ。2024年の4月から「GINZA SIX」の吹き抜け空間でインスタレーション「BIG CAT BANG」を展示しています。

「太陽の塔」を模した巨大な宇宙船から無数の宇宙猫が宙を舞うという、スペクタクルな場面が再現されていて、はじめて見た時は地球を救いにきた猫たちの崇高な使命感に心撃たれ、魂の嗚咽が止まりませんでした。

岡本太郎記念館で7月12日に始まり、11月10日まで開催されている企画展「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と」は、「GINZA SIX」での展示と表裏一体となっています。こちらの内覧会に伺い、ヤノベケンジ氏本人の話も伺うことができました。岡本太郎記念館では、宇宙猫を間近で観賞しながら、インスタレーションのバックグラウンドストーリーをより深く知ることができます。

もともと岡本太郎の影響を受けてきたヤノベケンジ氏。1970年の大阪万博の跡地で少年時代を過ごし、「太陽の塔」から受けたイマジネーションで育って、いつしか現代美術家に。岡本太郎の作品を間近に見て、イマジネーションのリミッターが外れる体験をしたそうです。まさに宇宙船から高波動を浴びたような感覚かもしれません。

岡本太郎氏と生前会うことはなかったそうですが、時空を超えて、芸術家同士の本気のコラボが実現しました。宇宙猫が大爆発してビックバン状態の「GINZA SIX」のインスタレーションは、まさに「芸術は爆発だ!」という岡本太郎の格言を表しています。

困難な社会状況に対するサバイバルをテーマに作品を制作してきたヤノベケンジ氏。現代は、震災やコロナ禍、気候変動など次々と困難な状況に見舞われています。また2025年の「2025大阪・関西万博」を迎えるという節目に、「太陽の塔」モチーフの作品を改めて観賞することで、約50年間の地球や日本の変化に思いを馳せることができます。この宇宙猫を「2025大阪・関西万博」のマスコットにしてほしかったです……。

もちろん、常に人類をサポートしている猫たちへの感謝も忘れてはいけません。ヤノベケンジ氏は、妄想ストーリーと称していましたが、猫好きの猫バイアスで見ると、「宇宙猫が太古の地球に来て生命の種を植えつけた」というのは、太古の昔に実際にあった神話のように思えてきます。

大阪万博の「太陽の塔」も内部に地球上の生命の進化を表現した作品が展示されているそうですが、「BIG CAT BANG」も地球上の生命の起源を表現しています。宇宙猫たちは「太陽の塔」の形の宇宙船「LUCA号」で地球を訪れ、生命の種をまいたあと、力尽きて倒れていきます。もしかしたら今隣にいる飼い猫は、その時の生き残りの子孫かもしれない、という壮大で美しい物語です。

宇宙服姿の猫たちがかわいくて、猫なのに、木を植えたり生命の種をまいたり、労働している姿に泣けてきます。こちらの挿絵は生成AIを活用して短時間で描き上げたとのこと。心暖まる手描き風タッチでしたが、AIと協力して描いたとは。それでも感動の大きさは変わりません。「これからのクリエイターはプロンプトの入れ方を身につけるのが重要」とおっしゃっていました。時代に合わせてアップデートしていっているヤノベケンジ氏は、これからも地球の変化を乗り越えて現代美術家として長く活躍されることでしょう。

岡本太郎記念館のあちこちには、隠れミッキーのように隠れ宇宙猫がたくさん設置されていて、探す楽しさもあります。庭には、羽が生えた巨大な「SHIP’S CAT」が鎮座。地球の生命誕生に貢献してくれた猫神様の像のようで、自然と手を合わせたくなる神々しさが。地球はこれまで5度の大量絶滅を経てきて、6度目の絶滅もそろそろだと言われていますが、宇宙猫に助けを求めたら救ってくれそうな気がしてきます。

岡本太郎記念館の展示は11月までですが、「GINZA SIX」の猫大爆発展示は、2025年の夏まで設置されているとのこと。それは偶然にも、様々な人が大災害が起こると予言している時期……。でも、この宇宙猫の作品のピースフルな波動が、人々の意識に変化を起こし、もしかしたら未来もポジティブなものに変わるかもしれません。猫は、何度でも何度でも人間を助けてくれます。

(イラスト・文:辛酸なめ子)