8月8日、宮崎県沖・日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生。気象庁は「南海トラフ地震臨時情報」を発表し、各地の観光業は大打撃を受けることに。注意の呼びかけは1週間で終了したが、脅威が去ったわけではない。南海トラフだけじゃなく、日本の全国各地に巨大地震の「震源」は潜んでいるのだ─。

「今後30年の間に、M8~9の巨大地震が起こる確率は70~80%」

 今では誰もが知る南海トラフ地震。政府の地震調査委員会が算出した予測(20年時点)がいよいよ現実味を帯び始めている。地震大国・日本に住む者にとって常に関心は高いが、「30年」という長いスパンでの予測とあって、地震が起こるのが1年後か、それとも30年後なのか、国民の大半がヤキモキさせられているのが実情だ。

 しかし、その南海トラフ地震が発生するタイミングを、これまで以上の確度で予測する手がかりがあるという。地震前兆研究家の百瀬直也氏が語る。

「あまり一般に広く知られていませんが、大地震と海洋現象のつながりが、これまでも研究されています。そして、大型地震の発生を抑制すると考えられているのが、『黒潮大蛇行』です」

 黒潮は言うまでもなく、日本列島の南側を流れ、房総半島付近に達する海流だ。そして「大蛇行」とは、九州南東沖で発生した渦が北上とともに徐々に大きくなり、その影響により紀伊半島沖で黒潮が進路を変え、結果的に大きく南に蛇行してしまう現象である。

 百瀬氏が続ける。

「黒潮大蛇行が発生すると、通常時よりも潮位が引き上げられます。ということはその分、海底のプレートにいつもより負荷がかかる。それにより、プレートの動きが抑制される状態になり、プレート変動による大型地震の発生率を軽減するわけです」

 現在は、17年8月に発生した大蛇行が継続している状況で、その期間は観測開始以来、過去最長となっている。つまり逆説的に言えば、太平洋側のプレートには過去最大級の負荷がかかり続けているということだ。

「黒潮大蛇行は7年以上続いています。長く続くと、それだけ力の“ひずみ”がたまっていきます。つまり、大蛇行が収まった時の反動が大きくなり続けているということです」(百瀬氏)

 言うならば、黒潮大蛇行の開始と終息は「大地震の予兆」にもなりかねない、というわけだ。

「直近で発生した南海地震は、1946年( 昭和21年)の昭和南海地震と、1854年(江戸時代・嘉永7年)の安政南海地震。前者は地震の発生直後から黒潮大蛇行が始まっています。江戸時代の方は当然ながら詳細なデータが残っているわけではないですが、この直前、ペリーが黒船で浦賀に来航した時に、艦隊が黒潮大蛇行に似た海洋状況を観測していました。黒潮大蛇行が与える南海地震への影響は、決して無視できません。海洋研究開発機構が8月9日に発表した長期予測によれば、少なくとも10月上旬までは黒潮大蛇行は続くとされます。終息の時期が見えていないため、個人的には今すぐに南海トラフ地震が起こる、という可能性は低いと考えています」(百瀬氏)

 明日ではない、明後日でもない、でも年内には? これまで黒潮大蛇行という言葉を知らなかった読者諸兄も、これからは日々「大蛇行終息」のニュースを気にしておく必要がありそうだ。

(つづく)

【写真ギャラリー】大きなサイズで見る